第162回通常国会

2005年2月22日 決算委員会



(1)「貧困削減」というODAの目的
(2)目的とかけ離れたODAの杜撰な精査
(3)経済制裁と同列視する誤った対中国ODA中止論
(4)農業問題・環境問題を見据えた戦略的視点が必要


○又市征治君
 社民党の又市です。
 まず初めに、草野参考人にお伺いをしたいんですが、先ほど来出ておりますけれども、先生は冷戦後の日本のODA戦略という論文の中で、日本のODAの分野別の推移について、一方の代表としての貧困削減、これに特に資するのは水供給、衛生及び保健であろうと、こう定義をなさっておりますね。その結論として、一九九〇年以来二〇〇一年までに水の供給や衛生のシェアが五・二%、保健が二・五%で貧困削減という国際的なニーズにある程度こたえてきたことは言えないだろうかと、慎重ながら一応肯定的に評価をなさっている。ただ、すぐその後で、最も日本のODAを批判するときによく使われる経済インフラのシェア、とりわけ運輸のシェアは逆に一九%から二六・三%に増えている、結論として、両方のバランスについては、経済インフラのシェアを大幅に減らしてまでも貧困削減に振り向けるという考え方はなかったということになろうと、こう結んでおられて、かなり批判的なわけですね。

 もちろん私も、先ほど先生もおっしゃいましたように、当然生産した商品を町まで運んでいくために道路が必要だということ、あるいは効果が間接的で迂遠であるにせよ、そうした道路援助をまるっきり否定するつもりはもちろんのことないわけですが、しかし、このくだりを読んだ限りでは草野先生は、大変紳士的な言い回しにもかかわらず、やはり日本の貧困削減への支援というのは例えば道路建設への支援に比べて格段に低いままだと、内容の抜本的な転換はなされていないというようにこれ読めるわけですが、この点はもう少し御説明をいただくならば、これが第一点ですね。

 二点ございまして。といいますのは、去年は私もタイとインドネシアの調査に参りましたが、そのタイで、幾つかございましたけれども、一番典型的なのはバンコク第二空港だとか高速道路のプロジェクトであったわけですが、大変私自身は疑問に感じました。そのバンコク第二空港なんというのは、アジア最大のハブ空港を造りますよ、第一空港は後でどうするんですかと言ったら、これはチャーター便の専用空港にするんですという話。こんなことに一体全体日本が援助をする意味があるのか、こういう問題を私自身は強く感じたわけですけれども。

 つまり、先ほど来出ているように、相手国が要請をしてきたから、あるいは相手が申し出てきたからこれを精査を、ODAに本当にふさわしいのかどうか精査が極めてずさんなまま、それで予算主義というか、そういう格好でうのみでやられたり、あるいは日本の企業の進出のためのプロジェクトや、あるいはいわゆる、ひも付き構造というのが依然としてあるんではないかというこんな思いが非常に強くするわけでありまして、ここらのところを本当の意味でどういうふうにチェックをしていくべきだ、どうすべきだというふうにお考えになっているか。この点、まず二点お伺いしたい。

○参考人(草野厚君=慶應義塾大学総合政策学部教授)
 お答えをいたします。
 又市さん、お忙しいのに私の論文をきちんと読んでいただいて、大変恐縮でした。
 実は、その論文を書いた時点と若干、先ほど言いましたように世界的なインフラに関する議論の潮流が変わってきたということがあるんです。ただ、しかし、私はやみくもに、今、タイの第二空港の話をされましたけれども、ああいうものも含めて全部いいと言っている意味では全くなくて、先ほど小林さんの御質問にもお答えいたしましたように、インフラといっても千差万別です。それは精査しなければいけませんし、基本的には環境だとかあるいは貧困削減にきちんと資するというようなものというのは当然この前提として言えるわけです。

 ですから、従来型の、先ほど二点目で御質問されました、日本企業にこれがですね、私は必ずしも、ちょっと注意深く言わなきゃいけないんです、と申しますのも、実はアンタイド化というのは数年前は一〇〇%達成されました。しかし、日本の企業はこれだけ不況で、日本のお金を使っているのに日本企業がもうける機会が全くないというのはいかがなものかということで、現在では環境の案件とそれから日本の企業に独特の技術があるというようなものに関してはひも付きになっていますよね。私は、それは正当だというふうに思っております。ですから、ちょっと又市さんと私の解釈が違うのかなと思いますけれども、要請主義はもうなくなりました。

 そこで、先ほど来繰り返し言っておりますように、その国別の援助計画というものができて、そしてその国のニーズにどんなものが日本として援助できるのかということを日本が主体的に考えると、一丸となって、そういう仕組みができましたので、是非その、何というんでしょうか、実施ぶりを見ていただきたいというふうに思うんですが。

○又市征治君
 そこらの評価ですね。

○参考人(草野厚君)
 ええ。

○又市征治君
 はい。
 それじゃ、二点目に杉下先生にお伺いをしたいと思いますが、「ODAジャーナリストのつぶやき」というのを連載でなさっておられまして、これざっと見させていただきましたが、対中国のODAの論議について、今回は参議院調査団の報告書が火付け役だと書かれておりますが、私は中国班ではございませんでしたもので、その報告書の記述の背景の詳細については余り口幅ったいことは申せませんが。

 ただ、先ほど草野参考人のときに、今申し上げましたように、タイでの視察では、ODAの中身が第二空港の問題あるいは高速道路、これは余り多く申し上げませんでしたけれども、言ってみれば、国から要請を受けてそれで高速道路を造ったけれども、横に並行してまた市がやっている道路が造られていましたなんという格好の、こんな問題があったわけですけれども、タイはいわゆる卒業国ではないかという点では同じような体験をいたしましたが。

 このタイに比べても中国に対する日本人の国民感情がいろいろと複雑だということは、これは十分私も理解をしておるわけですが、ただ、それに続けて杉下先生は言っておられるのは、中国に対しては国防費あるいは原潜問題や反日運動など日本側から見た不満も多いが、それを対中ODAにぶつけるのは適切でない、こういうふうにお書きになっておりますですね。私もここのところは同感なんですが、続けて、今一番危険なことは経済制裁と同列視するような一部の意見だと、そんな感覚で幕引きをしたのでは、これまで長い時間と大量の資金を投入してODAが築いた日中の協力関係は水泡に帰してしまうと、こう述べておられます。
 ここでおっしゃっている対中国ODAの重要さ、水泡に帰させてはならないという、ならない意義というのはとりわけ何を指してそのようにおっしゃっているのか、もう一度改めてここのところは整理をお願いをしたいなとこう思いますが。

 これは私の思いですけれども、やはり過去の十五年戦争あるいは日本の軍事占領、経済支配の対象国、部分的にはかいらい政権、支配の地であったことや、あるいは多数の人命を含めて、その傷痕を戦後長い時間と莫大なお金を使って、言ってみれば賠償的なというか、そういう側面も含めて、このODA援助というのは中国について言うならばこれはあったという、そういう思いがあるわけですが、そういう面も含んでいるということなのか。
 それとも、戦争責任とかそういうのは関係なく、もう少し一般的なリアリズム、つまり、単にODAは長い間の貯金であるから、いざというときの外交カードなんだから、そこは大事にしろよというふうにおっしゃっているのか、ここらのところをもう少し御説明をいただければという思いがあるわけであります。これがまず第一問目です。

 二問目には、そうした問題と別に、いろんな意味で議論があります。有償、無償、無償の資金援助の問題は、それはそれぞれで軟着陸をすべきだという意見があったり、それはそれでいいんですけれども。
 問題は、私は日本の、先ほどのことにも絡むんですが、本当の意味で、戦略的に見て、例えば中国というものを見たときに、あの十三億人も住む国が大変な食料輸入国になっておる、しかし広大な土地を持っておる。ここのところに本当に日本の農業技術力をもってすれば、もっともっと生産力を上げることができる。こういったものを、先ほど草野先生は要請主義はなくなったからという、おっしゃっていましたが、問題はやっぱり、これは日本なら日本も戦略的に考えて、中国と話をする中で、そういったところの援助を、うちとしては技術援助なんかもっとできますよと、こういうことをもっともっとやっていく視点が必要ではないかと。

 環境の問題、どんどん、どんどん、向こうで石炭たかれて、片一方でCO2、こっちは全体的に下げましょうよといったって、そういう問題もあるんだろうと思うんですね。

 そんなことを含めて、もっと日本のODAを進めていくその視点といいますか、そういう戦略的な視点が私は非常に大事ではないかというふうに思っているわけですが、先ほどの、そうした先生のおっしゃっている中国ODAのありよう、ばさっと切ってしまうような話ではそれは駄目ですよということの問題と、今後のありようの問題と、この二点についてお伺いしたいと思います。

○参考人(杉下恒夫君=ジャーナリスト・茨城大学人文学部教授)
 お答えします。
 又市先生のおっしゃるとおりで、私特に、そのとおりだとしか言いようがないんですが。
 一つだけちょっと、小林先生と又市先生の貧困削減の話をちょっとさしていただきたいんですが、この貧困削減というのは、ODAというのは結局全部、究極の目的はある意味では貧困削減なんです。道路造るのも貧困削減につながってくると私は思います。経済協力というのは結局全部が貧困削減なんですよね。それに特化するプロジェクトというんじゃなくて、感染症対策も貧困削減につながるし、人口問題対策も貧困問題につながるし、そういう意味で、私は、貧困削減というのは、特化せよという御指命ですが、そういうプロジェクトだけむしろ発現するとかえって効率のいいプロジェクトにならないかもしれないので、貧困削減というのは常に頭に入れながらも、いろんな形でアプローチすべきだと、そう思います。

 それから、二つ、今、私直接いただいた質問に対して、これは今申し上げたとおり、そのとおりでございます。
 それで、さっきのに一つだけ付け加えるとすると、経済制裁というのは、私が言っているのは、北朝鮮に対する経済制裁と対中援助の停止というのが同列視して今言われるちょっと雰囲気があるんじゃないかということを気にして書いたものでございます。
 それで、全くそのとおりで、水泡に帰すというのは、私が言ったように、一つ、基本的には投下した三兆円以上のお金が水泡に帰すということと、やはりそれによって生まれた戦争責任などに対する、やはりある意味のコンソレーションというか、そういった中国人の日本に対する考え方、そういったものにも少しは、もちろん大きな効果はあったと、そういうものが水泡に帰してしまうということで、先生のおっしゃるとおりでございます。

 二つ目のことも、これもそのとおりでございます。やはり食糧支援、技術協力、こういったものは、寒冷地における農業支援とか、そういうのは日本はたくさん技術を持っておりますし、そういったものを是非やっていくべきだと、これについてはそのとおりということでございます。

○又市征治君
 ちょっと時間がございますので。
 私は、草野さんにまでそこまでお聞きできる時間ないかなと思ったんですが、今の点についてもう一言コメントいただければ。

○参考人(草野厚君)
 繰り返しになるんですけれども、冒頭のブリーフでも申し上げましたように、これだけ日中両国でナショナリズムが高まりを見せているときに、言ってみれば日本の側から、先ほどの、過去を背負っている日中関係、必ずしも日本が全面的に悪かったというふうには思いませんけれども、過去をやはりどこかで反省するという気持ちがあれば、今一部でテレビメディアも含めて中国けしからぬという、こういう議論にならないんじゃないかなというふうに思うんですね。

 ですから、この時点で何か日本政府がもうスケジュールを明示してストップというようなことは余り良くないのではないかなと、個人的にはそう思っております。

○又市征治君
 終わります。