第190回通常国会

2016年3月10日 総務委員会



■高市大臣の所信表明に対する質疑
@高市大臣の電波停止発言問題について質したい。
A大臣は放送法4条が、停波を命じる根拠になると考えているのか。
Bもしそうだとするならば、放送法1条の趣旨に反し、憲法第21条に抵触するのではないか。
C大臣発言に関しての与党内からの批判的コメントを傾聴すべきではないか。
D政治家が、公平を判断すること自体が矛盾ではないか。
E政府が憲法違反の法律を出した場合、報道が批判した場合、偏向であると言えるのか。
FBPOを育てていくべきではないか。


○又市征治君 社民党の又市です。
 今日は、今もありました大臣の電波停止発言問題について伺ってまいりたいと思います。
 2月8日の衆議院予算委員会での大臣の、放送局が政治的に公平性を欠く番組を繰り返した場合は、放送法第4条違反を理由に電波法76条に基づいて電波停止を命ずる可能性、これに触れられたわけでありますが、その後も、従来からの見解を述べたにすぎないということで、同趣旨の答弁がなされております。
 これに対して多方面から批判や抗議が続いているわけです。例を申し上げるならば、フジテレビ、テレビ東京、テレビ朝日、TBSテレビの社長が会見で大臣発言に批判的な見解を表明された。また、著名なニュースキャスターなど7名が「私たちは怒っている」と題して大臣の発言に抗議している。さらに、民放労連であるとか日放労などのマスコミ関係の労働組合も大臣発言等を批判されていますし、その他、法学者なども述べていますが、朝日、毎日、読売などの全国紙であるとか全国の地方紙も批判的見解を述べているということで、ちょっと大騒ぎになっているということだと思うんです。
 なぜこれだけ問題になるかということですけれども、私はやはり、安倍政権、自民党がこれまでメディアの報道内容にやっぱり神経をとがらせて、あの2014年の衆議院選挙だって、安倍総理がTBSに出演中にこの番組の内容に批判をする。自民党が各放送局に選挙報道の公正中立を求める文書を送る。さらには、昨年4月には、自民党の調査会が放送内容をめぐってテレビ朝日とNHKの幹部を呼んで事情聴取をした。高市大臣の発言はそれに続くものではないのか、多くの人々がそう見ているということですよ。まさに、権力が統制を掛けているんじゃないかと、今寺田さんお聞きになりましたけれども、NHKがまさにそういう意味では萎縮してしまって、そういう報道をやらなくなっているんではないのかという、こういう声が出ているということなんですよ。
 そこらのところを真剣に大臣は考えるべきだと思うんですが、そういう立場に立って私は幾つか伺ってまいります。
 確かに、放送法第1条は、放送の不偏不党であるとか真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保するということを目的として定めているわけです。これは全くそのとおりでありますが、4条の規定というのは、そのことを成し遂げるために、政治的に公平であったり、報道は事実を曲げないでやることなどという規定がされていますけれども、これはまさに放送局自身が目指すべき指針というか、或いは倫理規定、規範であるというのが憲法やあるいはメディア法の専門家の一般的な通説、こういうふうに伺っています。
 そこで、大臣、大臣の発言は、この4条をそもそも、放送事業者に停波を命じることができる、つまり、放送内容に政権が干渉できる根拠だとお考えになっての御発言なのかどうか。2つ目に、もし、だとすれば、この第1条の趣旨に反して、まさに憲法21条に抵触するんではないか、こういうふうに思いますが、この2点についてまずお伺いします。

○国務大臣(高市早苗君) まず、私自身が、無線局の運用停止命令、すなわち電波法第76条の規定ですとか、放送事業の停止命令、これは放送法の174条でございますが、こういったことを適用すると申し上げたことはございません。そしてまた、内閣及び自民党に対して放送事業者が何か批判をしたことに対しても、総務大臣になってから何らコメントをしたことはございません。それは、自分の立場としてするべきではないと考えていたからでございます。
 それを申し上げた上で、例えば放送法第174条の放送業務停止命令の規定ですが、これも平成22年11月26日に前政権の下で成立した放送法の改正法案によって新設された規定でございます。これは日本共産党さん以外全会派賛成であったと承知をしておりますが、この法案審議の際に、この参議院の総務委員会において、放送法第4条に規定する番組準則は法規範性を有することということで、当時、平岡総務副大臣が答弁をしておられます。
 そのときの答弁ですが、「番組準則については、我々としては法規範性を有するものであるというふうに従来から考えているところであります。 したがいまして、放送事業者が番組準則に違反した場合には、総務大臣は、業務停止命令、今回の新放送法の第174条又は電波法第76条に基づく運用停止命令を行うことができるというふうに考えているところでありますけれども、」ということで、その後、「これも従来から御答弁申し上げておりますように、業務停止命令につきましては、法律の規定に違反した放送が行われたことが明らかであることに加えまして、その放送が公益を害し、放送法の目的にも反し、これを将来に向けて阻止することが必要であり、かつ同一の事業者が同様の事態を繰り返し、かつ事態発生の原因から再発防止のための措置が十分でなく、放送事業者の自主規制に期待するのでは法律を遵守した放送が確保されないと認められるといったような極めて限定的な状況にのみ行うこととしているところであり、極めて慎重な配慮の下運用すべきものであるというふうに従来から取り扱ってきているものでありまして、」と答弁をしておられます。
 私自身の衆議院における答弁も、もう何度にもわたりましたけれども、放送法第4条に法規範性があるということ、また、放送法第174条及び電波法第76条の運用は相当、もう平岡副大臣がおっしゃっていたとおりの文言でございますけれども、極めて慎重な運用であるべきであるということももう何度も答弁をさせていただいております。
 憲法第21条との関係ですが、この放送法の大改正、平成22年の放送法の大改正も閣法でございます。当然、内閣法制局の大変厳しい審査も受けており、決してこれは憲法に抵触するような形にはなっていないと私は考え、また、民主党政権時代の答弁をそのまま踏襲させていただいております。仮にこれが憲法違反かということになりましたら、それを判断できるのは憲法上最高裁判所だけでございます。

○又市征治君 まあ、4条違反だからといって直ちに停波命令が出せない、慎重に取り扱う、限定的だ、これはもう当たり前のことなわけで、問題は、この4条違反、つまり、政治的公平が保たれないと総務大臣が判断して、それが最終的に停波につながるそういう仕組み、この存在そのものが私は、存在すると考えている総務省の考え方、これが私は問題だと思うんですね。
 公共の福祉を守るということも今話が出ましたが、これは全く当然の話ですよ。問題は、誰がその公共性だとかあるいは公共の福祉の中身を定めるかということでありますけれども、これは権力者が公共の福祉を口実に放送事業者の報道あるいは表現の自由、これを審判することがあってはならないということは、これはもう当然のこと、こう申し上げなきゃなりません。
 そこで次に、この大臣の発言に対してやはり与党の中からもちょっと慎重な発言が出ている。2月9日には石破大臣が、気に入らないから統制するとかそういうことをやると民主主義とメディアの関係がおかしくなる、こういうふうに、高市大臣の指摘、これは前政権のときの発言を繰り返したまでだと、こうおっしゃっているが、それに対してこういう指摘をされている。また、公明党の山口代表も、政府が内容についてコントロールするのは慎重であるべきだと言及されているし、そしてまた、自民党の谷垣幹事長は先月27日の民放BS朝日の番組で、政治的偏向をどうするかという判断に行政が立ち入ると難しい局面になる云々と指摘されているわけでありまして、これらはやはり権力側がこの停波命令の可能性に触れることそのものが放送界を萎縮させる、或いは恫喝をすることになりかねない、こういう認識から見解を述べられたんだろうと、私は常識的な見解だろうと思うんです。
 そこで伺っておきますが、大臣は是非こういう声に率直に耳を傾けて対応いただきたいと、こう思うが、それはいかがか。
 2つ目に、そもそも番組が政治的に公平か否かということを、自身も政治家である総務大臣、政治家なわけでありますが、その大臣が判断すること自体がこれは矛盾だと言わざるを得ないんではないかというふうに私は思います。
 そして3点目に、もっと言うならば、分かりやすく言うならば、政権側が明らかに憲法違反の法律をもし出した場合、これを批判する報道というのは政治的に偏向だと見られるのかどうか。そんなことをやれる話ではないわけでありまして、少なくともそういう意味でこれを停波という処分と結び付けて考えること自体が無理があるんではないかと思いますが、以上3点について伺います。

○国務大臣(高市早苗君) 2月9日から、石破大臣の御発言等々、与党の議員の方々からの御発言があったと承知いたしておりますけれども、2月8日の予算委員会でのやり取り、テレビ中継されていなかったと思いますし、それぞれ閣僚、委員会の時間もずれたりしておりますので、そのやり取りについては御承知じゃない上でのお話だったように伺っております。
 ただ、政権が番組内容に介入するとか、それから番組が政権批判をしたからこれに対していきなり処分をするようなことは、これはあり得ません。あってはならないことでございます。これは私も委員がおっしゃるとおりだと思っております。
 ただ、最終的に、問題が起きた場合、放送事業者が基本的にはもう自律的に、自主的に番組を編集され、そして放送法を遵守していただくべきものであります、放送法はそういう立て付けでございますけれども、最終的に何かを判断していかなきゃいけないというときに、議院内閣制を日本は採用しておりますので、内閣の一員である各省の大臣が責任を持って行政を執行するということも原則でございます。
 特にこの放送分野は非常に国際競争も激しい分野でございますので、これはかなり機動的に対応していかなきゃいけない分野でもございますので、これはやはり、憲法5章に規定された内閣の位置付け、そしてまた73条に内閣の事務として法律を誠実に執行しなければならない旨が書かれておりますので、最終的には、何か問題が起きたときに、もちろん放送事業者から十分に事実関係も伺い、報告も踏まえ、放送法を所管する総務大臣が総合的に判断を行うということになっております。ただし、これまで4条に係る違反があったとして、電波法の76条ですとか放送法の174条、いわゆる命令と言われるものが発せられたことはございません。相当慎重に運用されているということは事実でございます。

○又市征治君 先ほども言いましたように、メディアの関係者は、本当に緊張感を持って、あるいはもう現実にいろんなところで語られているのを、そういうものも耳にいたしました。やはり、大臣の発言を非常に緊張感というか、或いは危機感を持って受け止めているということをしっかりと認識をされるべきだろうと、こう思うんです。
 大臣が法を遵守するとか云々と言われるのは、これはもう当たり前のことでありますけれども、政治的公平というような抽象的な尺度の具体化というものを政治に携わる者が行うこと自体が私は問題だ、こう申し上げているんですね。
 特に、例えばですけれども、さっき申し上げましたが、お答えありませんでしたが、少なくとも、安保法制が典型的なように、安倍政権、従来の内閣の閣議決定、或いは国会、社会、営々と積み上げられてきたこの論議、閣議決定というものを、法制局長官を入れ替えさせる、こんなことをやって、或いはまた多くの憲法学者の声も聞かないで、ねじ曲げて違憲立法を成立させるということが起こった。そういう憲法に違反するのではないかという問題について、報道関係が言ってみれば自分たちなりに解釈をし、これはやっぱり憲法違反でないかという報道の量が多くなってやられる、当たり前のことだと思うんですね。
 だから、そういうことに内容に入ってはいけない。それを、まして政権側の総務大臣が公平公正な判断ができるわけがないということなわけですよ。そこのところをしっかり踏まえるべきではないかと、こんなことを申し上げているところであります。
 そもそも、さっき寺田さんがちょっとおっしゃいましたけれども、少なくともアメリカやヨーロッパ諸国では、放送法制の企画立案というのは、それは当然のこととして政府官庁が行うということだけれども、この放送の監督権限を行使するというのは、政府から独立した、政府の指揮命令を受けることのない独立した機関が行うというのが当たり前のことになっている。残念ながら、日本はそうなっていない。それを総務省が扱って、総務省がこの監督をするみたいな格好になっている。それが法の番人みたいなことをおっしゃっている。冗談じゃない、こう言わなきゃならぬ。
 このヨーロッパなどの例は、まさに放送メディアに対する規範、権限の行使というのは特定の党派の利害に影響されやすいようになるから、そうしてはならないということで独立機関を設けているということだと思う。そのことをしっかりと認識して、こうしたことを、殊更、停波ができるだの可能性があるだのということを言うということはやるべきじゃないということ。
 そういう意味では、先ほどもおっしゃっているけれども、これまでの見解を繰り返した、それは極めて限定的であり、特異な例なんだということをしっかりと踏まえた対応をすべきだ、そのことをしっかりと対外に対して表明されるべきだと。そうでなければ、こうした放送界の萎縮現象、こういうことがやっぱり進んでいくのではないか。こんなことで、まさにそれは民主主義そのものをゆがめてしまうことになるのではないか、このように思うわけですが、この点について見解を伺っておきます。

○国務大臣(高市早苗君) 先ほど長々と答弁申し上げましたが、電波法76条及び放送法174条、この運用については、もう極端な場合に極めて慎重な配慮の下なされるべきであるということで、ずっと答弁もし続けております。これは衆議院での答弁でございますので、参議院でこれからお尋ねがあったら、何度も丁寧に申し上げてまいりたいと思っております。
 また、民放労連の方からも公開質問状を頂戴いたしました。その中でも、当然、国権の最高機関であり、国民の代表の皆様方が集まる国会で行った答弁を超える範囲ではとてもお答えができないということをお断りした上で、十分に丁寧に今までの答弁を順を追って向こうからの質問に対して答えさせていただいたところでございます。
 今後も、マスコミも含めてお問合せがあったら誠実に回答させていただきたいと思っております。

○又市征治君 衆議院の総務委員会で大臣はBPOについても御発言されていますが、さっき申し上げた点で言うならば、やっぱりこうしたBPO、自主的に自律的にやられている、このことを育てる、そういうことを支援していくということをしっかりやるべきではないか。
 さっきも申し上げましたけれども、本当に放送事業者の首根っこを押さえているのが政府、総務省だというふうな、こんな先進国というのはないわけでありますから、そうした先進国の放送行政の実態は多分研究なさっているんだと思うけれども、そういうものに基づいて、むしろしっかりとこうしたことの扱いについて対応されるべきではないか、このように思うし、是非、そういう意味では、しっかりと総務省がそういう方向に向かって、どのような、研究を更にやっていただきたいと思うけれども、そのことの決意をお聞きして、私は終わりたいと思います。

○政府参考人(今林顯一君) BPOについて言及がございましたので、その点ちょっと申し述べさせていただきます。
 先生よく御承知のとおり、BPOは、苦情あるいは放送倫理の問題ということが一時問題になりましたときに、第三者の立場から迅速的確に対応するということで、2003年7月に放送事業者、NHKさんあるいは民放連によって設立されたものでございます。これは、自律的取組、自主自律の一環ということで放送事業者の皆さんによって行われているものというふうに認識しております。
 他方で、放送法自身も自主自律を基本とする枠組みとなっておりますので、最終的には個々の放送事業者の責任に帰するものということで、そういう観点から、自主自律でやっていただくことを基本として、私どももそれを見守っていきたいというのが基本でございます。

○又市征治君 私は、BPOを育てる努力をしたらいいと申し上げているんです。それから、日本のこの仕組みを変えることを含めて検討していただきたいと申し上げているので、その点だけ申し上げて、終わります。