2005.5.31

1. 「民営化」法案自体が法律違反の欠陥法案だ
(1)  もともと郵政公社は、1998年に橋本内閣の下で成立した中央省庁等改革基本法に基づいて設立された。改革基本法には、公社設立のために様々な措置をとった後、「民営化等の見直しは行わない」(33条1項6号)と規定している。つまりこの改革基本法は、行政改革会議の最終報告の内容の実現=改革の結果としての郵政公社の「維持」を政府に義務付けたものである。したがって、郵政民営化法案はこの改革基本法違反の欠陥法案である。
 ※「利用者の利便性に配慮しながら、国民が真に望んでいる改革とは何かを十分検討した結果、…これを従来の公社とは異なり、自律的、弾力的な経営を可能とする新たな公社に移行することとし、民営化等の見直しは行わないことと致しました。これによりまして、郵便局の地域に根差した機能は維持しながら、国の企業としての性格にふさわしい主体的で創造性に富む柔軟な業務運営を通じ、効率性を確保することができる」と当時の橋本総理が答弁している。
(2)  民営化法案を国会に提出しようというのであれば、まずこの33条1項6号を削除する法案の提出が先である。それが国会に提出されれば、必然的に民営化の是非をめぐって基本的な議論が行われ、改正案(=民営化の見直し)が国会で可決すれば、その上で政府は民営化法案を堂々と提出すればよい。法治国家において政府自身が法律違反の法律を作ることは憲法73条違反であり、許されない。小泉首相の暴走と言う所以である。
(3)  欠陥法案と言うもう一つの理由は、民営化後の郵便局設置基準など、政省令に委ねられる項目が合計200数十以上もあることだ。政府に200数十項目も白紙委任する法案自体、法律の体をなしていないし、審議の仕様がないのである。

2. 政府の説明は矛盾だらけだ
(1)  「今のままでは民業を圧迫する」というのが、これまでの政府の説明であったが、最近は「公社のままでは経営がジリ貧に向かう」という。説明に一貫性がないし、根拠がまったく不明である。
(2)  また、民営化すれば年間3300億円から9300億円もの利益が生まれると説明している。だが、赤字である過疎地域でも事業を義務づけて、このような利益が出る筈がない。試算自体「まゆつば物」だ。もし仮に、毎年このような巨額の利益が生まれるとしたら、それこそ民営化は「民業圧迫」そのものであり、説明は矛盾だらけである。「郵便局をコンビニに」ともいうが、政府自ら地域商店街を壊すと宣言したに等しい。
(3)  竹中担当大臣は、郵政事業を民営化して赤字になったら税金で補填すればよいとも言うが、現在補助金も税金も一銭も使っていない郵政事業をなぜ民営化し、税金で補填なければならないのか、支離滅裂である。
(4)  民営化後も全国的に郵便局を設置することを法律で義務付けるというが、それならば全国あまねく郵便局を設置しなければならないとした現行の郵政公社でよいことになる。
  完全民営化の2017年以後も、地方の郵貯・簡保などの金融サービスを維持するために「基金」を設けるというが、そうまでしてサービスを維持するのであれば、民営化する必要はないではないか。そもそも営利目的の民間企業に不採算部門を押しつけるのは資本の論理に反しており、「民営化」とは言えない。
  郵貯、保険両会社の2017年完全民営化は崩さないとする一方、「持ち合い株式の連続的保有は妨げない」、「完全民営化後も両会社と窓口会社との間の代理店契約は延長できる」、「全国一律の金融サービスの維持のための基金を1兆円から2兆円に増額する」などという政府・自民党間の修正協議は、「民営化」とは名ばかりで現在の郵政事業を、ただ複雑で分かりにくくするに過ぎない。

3. 国民は郵政民営化を望んでいない
(1)  1月の読売新聞の調査では、優先すべき課題で、「郵政民営化」はわずか6.7%で15番目。また政府の調査では、政府が取り組むべき重要課題(複数回答)のうち「郵政民営化」と回答したのは25.7%で10項目中8位であった。
(2)  2月の毎日新聞の調査でも、郵政民営化法案について「今国会で成立させるべきだ」との回答は21%、「今国会成立にこだわる必要はない」が48%だ。「民営化する必要はない」も23%である。また日本経済新聞社の調査では、優先的に処理してほしい政策課題(複数回答)は、「年金・福祉など社会保障問題」が61%、2位は「景気対策」の35%、3位は「雇用対策」の25%で、郵政民営化は14%だ。首相の郵政民営化最重視に関しては「理解できる」としたのは22%にとどまり、「ほかの課題の方が重要だ」が64%を占めている。
(3)  さらに、地方団体では、都道府県議会の93.6%、市町村議会の88.3%が民営化反対の意見書を採択(昨年末現在)し、全国市町村長の76.3%が現行の「公社制度の維持」を表明している。
(4)  このように、国民が望んでもいない課題がなぜ「改革の本丸」か。首相と国民の願いにあまりにも大きなずれがある。国民に目を向けるのであれば、郵政民営化問題より景気・雇用や社会保障制度等を重視すべきである。「殿ご乱心」と言う他ない。

4. 公社のままで必要な改革をすべきだ
(1)  郵政公社は、現在、第一期中期経営計画(4年間)に取り組んでおり、3事業とも黒字経営である。だからいま民営化する理由はない。仮に民営化するにしても、少なくとも4年間の計画の達成状況を検証した上で、必要な改革を検討すべきである。その結果も見ずに「民営化ありき」というのは、あまりにも乱暴と言う他ない。
(2)  国民が望んでもいない、ましてや他国の例でも失敗が目立つ民営化をいま、強引に進める必要はまったくない。公社制度の下で郵便局のネットワークと郵政3事業をユニバーサルサービスとして維持し、世襲の特定郵便局長制度や財政投融資制度のあり方の見直しなど、必要な改革に取り組むべきである。
(3)  郵政を民営化しても、無駄な公共事業や特殊法人など出口を見直さなくては、財政再建は達成できない。必要なのは、天下りの禁止であり、その事業が国民にとって役立っているかどうかという判断をしたうえでの郵貯・簡保資金の使い途の見直しである。郵貯や簡保によって集められた巨額の資金が財政投融資を通して戦後復興や高度成長を支えたのは事実である一方で、財投機関である特殊法人が「高級官僚の天下り先」であり「汚職の温床」であることも正されなければならない。
  利権体質を生み、無駄が多い、大規模公共事業ではなく、庶民の郵貯・簡保資金だからこそ、地域のために、福祉のために使うべきである。公社の経営や郵便局の運営に際し、第三者や利用者の声を反映させるシステムをつくるべきである。民間銀行を国有化し、国営の郵貯・簡保を民営化するのでは誰も納得しない
(4)  また、公社化された郵便事業では、民間との競争の名の下、トヨタ方式の導入などすさまじい合理化と人員削減、アルバイト雇用の拡大が進められ、郵便配達バイクによる交通事故も多発している。新聞や雑誌等に適用している第三種郵便の廃止や点字郵便等第四種郵便の料金設定は公社に委ねられ、障害者団体を初め、不安の声が多数寄せられている。一方で、ふるさと小包を扱うポスタルサービスセンターなどのファミリー企業にはメスが入っていない
5. 民営化でサービスは維持できるのか
(1)  民営化したら地方の郵便局は切り捨てられ、郵便局がなくなったら田舎はもっとひどいことになり、過疎を促進する。JRは地域別に分社化を行ったが、JR北海道や四国・九州は赤字であり、運賃もJR東日本と比べると2割ほど高く、廃止された路線も多い。弱者を犠牲にして強者がより強くなっただけだ。そして尼崎の大事故だ。
  郵貯・簡保が民有民営になって株主の主張を聞く会社になると、本当に僻地の郵便局に事務を委託するか。株主が決めることをどうやって政府が担保するのか。それができないとなると、全国の郵便局から貯金・保険の仕事が逃げていき、結局郵便局は維持できなくなる。「全国郵便局のネットワークは維持します」というのは願望にすぎない。
(2)  2017年の民営化後の簡保・郵貯会社が、「持ち合い株式の連続的保有は妨げない」と言うが、本当に株式を持ち合うのかは新会社の判断になる。「完全民営化後も両会社と窓口会社との間の代理店契約は延長できる」と言うが、「延長しなければならない」とはなっていないのだから、会社の判断でどうにでもなってしまう。
  「全国一律の金融サービスの維持のための基金を1兆円規模から2兆円に増額する」という合意にしても、法文上は「増額できる」というだけで「増額する」かどうかはわからない
(3)  郵便局は、山間僻地にあっても、台風や地震の次の日に郵便物の配達をした。国営の公社で公務員だから献身的に公共サービスに全力が尽くされたし、地域に密着しているから被災者のことがよくわかった対応ができた。民営化され営利が最優先された会社で災害対応やセーフティーネットは担保できるとは思われない。JR西日本の列車事故では民営化が公共交通の安全を壊したことが明らかになったが、郵政では安心のサービスが危なくなる。竹中大臣が言うアメリカ型競争原理のビジネスモデルではない、日本型のやり方の中に世界に通用するビジネスモデルもあるはずだ。

6. さらにこんなことが危惧される
(1)  民営化した諸外国では、おしなべて郵便料金が上がり、郵便局数は減少している。民営化すれば、日本も同様のことになるだろう。ドイツはコンビニを始めたり、国際物流にも出て行ったが、3万あった郵便局の8割がなくなった。ニュージーランドは財政危機から80年代には売れるものは何でも売ったという。しかしその結果、ポストバンク(郵便貯金)はオーストラリアの企業に、鉄道は米国の企業に、それぞれ買収されてサービスが低下、国民から大きな不満が出て、与党は選挙に大敗した。ニュージーランド国民のコンセンサスは、国民のインフラは民営化すべきでないということだ。
(2)  今回の民営化を喜んでいるのは外資だけである。分社化すれば今に比ベコストもかさみ、民営化すれば融資業務にも進出することになる。コストを賄うために融資合戦になり、その結果体力勝負になる。外資は、体力が低下したところを狙っている。外資が安く買い取り、350兆円を日本国民のためでなく世界中のハゲタカファンドのために使うことになってからでは遅い。
(3)  国民の生活に密着した郵便局の経営形態を変えるのは、単なる組織変更ではなく、相当の準備期間が必要だ。通常国会の終盤になって法案を出し、会期を延長してでもごり押しするようなものではない。国民の共有財産としての郵政事業と350兆円もの巨額の資金の将来を決定する重大問題について、政府と与党が一致して責任を負うことのできないような法案を強引に成立させることなど、到底許されない



以 上