2006.2

T 憲法9条改悪は何をもたらすか

1.  今日の憲法改正論の最大の眼目は、第9条です。自民党案に見るように、第2項の「戦力不保持」を「自衛軍の保持」に180度転換し、「集団的自衛権の行使」に踏み出すことです。そうなれば一体どんな事態が起きるでしょうか。

2.  まず第1に、「専守防衛」の自衛隊が普通の軍隊に変わり、「交戦権」を持つのですから、例えばイラク派遣の自衛隊(軍)は、人道復興支援ではなく米軍と共に最前線に送られ、当然、相手国の国民を殺し、殺されることになります。

 第2に、米国は、今日、中東から北東アジアを「不安定の弧」と規定し、この地域の反米政権に対処する米陸軍第1軍団司令部を神奈川県の座間基地に移設を求め、政府はその対処範囲を極東と言い訳しつつ、受け入れました。9条を改悪して集団的自衛権の行使を可能にすれば、日本は日米安保条約を踏み越えて中東までの地域に対処する米軍の前線基地化することは明らかです。

 第3に、米国は国連憲章違反の先制攻撃論を取ってイラクを攻撃し、イランや朝鮮なども敵視しています。自衛隊を軍隊に変えて日米両軍の一体化と日本の前線基地化が進めば、緊張が高まった場合、敵視された国は「やられる前にやってしまえ」と、日本を攻撃する危険性が飛躍的に増大します。

 第4に、9条の改悪は「戦争のできる国」を許容する国内秩序を不可欠とします。現に自民党案は、国民に「国防の責務」を課し、「愛国心」教育を進め、「公益及び公の秩序」の範囲でしか国民の権利を認めない考えです。当然、高つく志願兵制に代えて徴兵制が採られます。そればかりか、現在約5兆円の軍事費に加えて米国の要求で莫大な戦費負担が増大します。ですから社会保障や福祉の一層の切り下げと大増税が必至となってきます。

3.  このように、憲法9条の改悪は、第二次世界大戦の深刻な反省の上に、「戦争の放棄」を国際公約した平和国家・日本の歩みを完全に覆して、「戦争のできる国」に転換し、合せて国民の暮らしや権利も今以上に蹂躙することなのです。
  戦後の惨禍の下で国民は憲法を定め、その3原則を否定する改悪自体を否定したのですが今日の改憲策動はこうした国民の意思や決意への挑戦です。

4. しかも、この改憲と対米追従路線は、世界が国連を中心とする国際協調と軍縮を強める中では異端の道です。だから05年4月23日に韓国の盧武鉉大統領が、自衛隊の海外派遣、小泉首相の靖国参拝、歴史教科書の歪曲そして平和憲法改悪などの動きを指して、「侵略と支配の歴史を正当化し、再び覇権主義を貫徹しようとする意図は見過ごせない」と非難声明を出したように、中国、韓国はじめアジア諸国の不信と警戒心を強め、関係悪化を引き起こしているのです。


U 日本国憲法の理念・3原則とは

1.
 ご承知のように、憲法は、前文で「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」と謳っています。つまり政府による戦争を止められず内外に甚大な犠牲を出したことへの国民の深い反省に立った決意です。
 この決意の上に、「国民主権、恒久平和、基本的人権の尊重」の3原則を宣言したのです。すなわち国民主権は「人類普遍の原理」(前文)であり、また基本的人権は「侵すことのできない永久の権利」(11条)であって、これは「人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」(97条)であること、さらに平和主義は「人間相互の関係を支配する崇高な理想」だ(前文)と銘記したのです。

2.
 そして憲法は、前文の中で「われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」と謳い、この憲法の理念・3原則を否定する改悪を禁止しています。つまり平和主義をさらに徹底するとか、民主主義的権利を拡充するなどの憲法3原則を前進させる改正はあっても、これの改悪は認めていないのです。そればかりか憲法99条は、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う」と重ねて規定し、主権者たる国民が政治権力に対し厳しく規制しているのです。

3.
 因みに、自民党の「新憲法草案」は、戦争の深刻な反省の上に決意した「恒久平和」の意思を削除し、代わりに「国や社会を愛情と責任と気概を持って自ら支える責務」を盛り込み、「愛国心」や「国防の責務」を国民に強制しようとし、また「戦争放棄」に換えて「自衛軍の保持」を明記して海外での武力行使を可能にし、集団的自衛権の行使を容認し、さらに立憲主義の原則を踏みにじって「公益及び公の秩序」の範疇に国民の権利を規制するものであり、明らかに憲法の理念と3原則を否定する改悪以外の何物でもありません。
 

4.
 なお、これが平和憲法と呼ばれる所以は、戦争になれば個人の尊重も幸福追求もないという現実を踏まえ、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、…永久にこれを放棄する」(第1項)に止まらず、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権はこれを認めない」(第2項)と、第9条2項で非武装平和を銘記しているところにあります。これは、国連憲章第2条を一歩進めて「戦力の不保持」を宣言した点で、世界の平和秩序形成の先駆的意義を持っており、これが21世紀の世界の流れです。
 この憲法9条の存在が、大戦で廃墟と化した日本が戦後半世紀も経たぬうちに世界第2位の経済大国となり、国際社会で一定の評価を得るに至ったのであり、この努力こそが「国際社会において、名誉ある地位を占める」道なのです。


V 社民党の情勢認識と平和創造政策

1.  そもそも、日本が他国から武力攻撃される条件はあるでしょうか。
 3年前の有事法制審議の際、私が「憲法で戦争放棄を宣言している平和国家・日本を一方的に攻めようとすれば、世界中を敵に回し、その国自らが滅亡する覚悟が必要だ。そのような愚かな国があるのか」と小泉首相を追及した際、「備えあれば憂いなし」としか答えられませんでした。つまり憲法9条によって、日本が挑発しない限り、他国から攻撃される要件はないのです。
 「でも朝鮮が危ない」という宣伝がありますが、自ら滅亡することを承知の上で攻撃するほど朝鮮も愚かではありません。これは、一昔前の反ソ連・反中国宣伝と同じです。日本がいま朝鮮となすべきは、過去の侵略戦争と植民地支配の誠実な謝罪と補償を行い、国交を正常化して敵対国から友好国へ転換することです。もちろん、拉致事件は許されざる人権侵害の国家犯罪ですから、当然抗議し謝罪と真相解明を求めることも、同時並行で進めるべきです。

2.  第2に、万一戦争になった場合を考えてみましょう。どこかの国が日本を攻撃する場合、当然、空と海から猛爆をかけ制空・制海権を握ってから上陸・侵攻してきます。その際、相手は当然、日本の原発と軍事基地を狙うでしょう。原発1基爆砕されれば広島型原爆の1000倍以上の被害です。仮に日本列島ど真ん中の福井県の15基の原発が空爆されたら、その連鎖爆発で日本の中央部は壊滅します。そもそも政府は、憲法9条によって日本が攻撃される要因はないと考えたからこそ、52基もの危険な原発を建設してきたのです。憲法9条を変えて日米軍事一体化が進めば、この前提条件は崩れ去るのです。

3.  このように、今日的情勢を冷静に分析し、「戦争になったら終わり。戦争を回避する平和外交こそが全てだ」という憲法の平和主義に立脚し、攻撃を受ける要因を解消していく積極平和外交こそが、政治の使命です。この観点から社民党は、次のような平和創造政策の実現を目指しています。
@  北東アジアに信頼と協調による多国間の総合安全保障機構を創設し、国際紛争が生じた場合は武力不行使・平和的話し合いを前提とする。併せて北東アジアの非核地帯化の共同宣言を実現する(中国、韓国、モンゴルも同意)。
A  この進展に対応して、在日米軍基地の縮小・撤去を進め、日米安保条約を平和友好条約に転換する。
B  また、肥大化した自衛隊の規模や装備は、当面、領海・領空・領土を越える戦力を削減し改編・縮小する。将来的に、国境警備隊や国土防衛隊などの警察力、災害救助隊や国際平和協力隊などの非軍事・文民組織に改編する。
C  そのために日本は、「非核・不戦国家宣言」を衆・参両院で決議して国連総会で認知を求める(同様の立場をとる国を広げていく)。


W 憲法改悪を阻止するために

1.  衆議院では、自民党の96%、民主党の73%が9条改憲派です。しかし昨年10月5日の毎日新聞によれば、国民の改憲賛成派は58%、反対派は34%に上りますが、9条改正賛成派は30%、反対派は62%で、依然1:2です。社民党や労働組合が今こそ声を上げ、改憲反対の国民世論を確かなものにすることが重要です。改憲の手続き法である国民投票法案の提出が目論まれています。2〜3年後の改憲発議に対して国民の過半数を9条改悪反対で結集ことが、当面する最大の政治課題です。

2.  そこで、各県で、わが党や同調頂ける労働組合・民主団体などが中心となって、例えば5月と11月の年2回、「戦争のできる国に変え、徴兵制を復活する憲法9条の改悪反対」などの新聞意見広告運動(一口1000円)を組織する、それに結集頂いた人々を中心に2000〜3000人の「平和憲法を活かす(守る)会」を創り出し、県内いくつかのブロックなり市町村に広げていくことが大事です。これを全国的に結びつけ、改憲阻止で一致できる全ての団体との共闘を展望すれば、必ずや9条改悪を頂点とする改憲を阻止することができると確信します。この運動の前進が労働運動の活性化と相乗効果となるでしょう。
  「社民党頑張れよ」だけではダメです。党員が頑張ることは当然です。合わせて党を支持頂く皆さん、社民党と一緒に闘って下さい。共に歩き共に走って下さい。『憲法を活かす会』に入って下さい。国民の暮らしと権利、その基盤である平和と民主主義を守ろうと苦闘している社民党を強く大きくして下さい。5〜6年経って「あの時もっと闘っておけば」と後悔しても遅いのです。「許せないことは許さない」そんな思いを持つ人が職場・地域で仲間に呼びかけ、一市民としても、労働組合も奮起することが、今ほど大事な時期はありません。

3.  この闘いが前進すれば、他の政党の護憲派・良心派との連携も生まれてきます。そして憲法改悪阻止だけでなく、新自由主義による「弱肉強食の競争社会」ではない、「憲法理念を実現する政治」、「格差是正による生活優先の社会」、「人々の支え合いによる共生社会」という、わが党が主張する夢や希望が持てるもう一つの社会の実現が展望できます。

4.  憲法12条は、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」と記しています。先の大戦で非業の死を遂げられた未来ある340万人もの人々と、戦後の苦汁を舐めてこられた人々の無念さや平和への願いをも込めて、平和憲法を守り広げることが、生きとし生ける者の責務・使命だと記したものでしょう。いま改めてその使命感を自覚し、一緒に奮起しようではありませんか。



以 上