〜 小泉内閣から安倍内閣へ 〜
2006.9.28

はじめに
1.  9月26日、第165回臨時国会が開催され、小泉内閣に替わり安倍新内閣が発足しました。自民党総裁選挙を通じての安倍氏の主張と内閣の顔ぶれから見て、希に見る反動・タカ派内閣と断じざるを得ません。
 安倍首相は、今国会に教育基本法改正案、憲法改悪の国民投票法案、共謀罪創設法案、防衛庁「省」昇格法案、テロ特措法改正案などを提出し、押し通そうとしています。継続法案だとか日切れ法だからと言うのは論外です。それは、首相をはじめ閣僚が一新し、その内政・外交の基本姿勢をめぐる審議を抜きに、わずか81日間の臨時国会で、日本の進路を左右するこれらの法案を押し通そうとする姿勢こそ問題であり、断じて認められません。

2.  そもそも新内閣が先ず取り組むべきは、5年余にわたる小泉改革を総括し、それがもたらした格差拡大社会をどう是正し、米国に追随してアジア近隣諸国との関係を悪化させたことをどう修復していくか、その方策を示すことです。しかるに、安倍新首相は、小泉改革を継続・加速していく、日米(軍事)同盟を強化し双務性を高める、教育再生を図る、そして改憲を政治日程に乗せていくと言明するなど、総括・反省のかけらも見られませんし、また憲法99条に規定された「憲法を尊重・擁護する義務」を端から守る意志のない人物です。
 後ほど詳しく述べますが、小泉構造改革は、非正規雇用者を1650万人=全勤労者の3分の1にも拡大し、年収200万円未満の世帯を19%に増大させ、年金・医療・介護や福祉を次々改悪しました。安倍内閣がこの路線を継続・加速しながら再チャレンジ支援を掲げるのは全くのまやかしです。またアジア諸国に対する植民地支配や侵略の歴史認識や靖国参拝を曖昧にし、愛国心を教育現場に持ち込み、日米軍事一体化を押し進めながら改憲を政治日程に乗せていく安倍内閣を、アジアのみならず世界の国々は信頼するどころか警戒感と不信を強めるだけと言わねばなりません。反動・タカ派内閣と言う所以です。

3.  わが党は、国民の暮らしと平和を破壊する新保守主義の対抗軸は社会民主主義であるとの確信に立って、旗幟を鮮明にして安倍内閣に徹底した論戦に臨みます。と同時に、労働運動・市民運動などの院外大衆闘争を喚起し、合わせて野党4党との院内共闘を一層強化し、これら悪法の成立阻止に全力を挙げます。
 この国会闘争を通して、わが党は明年の統一自治体選挙と参議院選挙で議席増を目指します。特に参議院選挙では7議席以上を獲得し、与野党逆転を実現し、政治転換を図る決意です。社民党の存在と前進なくして政治の反動化は明白です。私は党と日本の将来を賭けて参院選勝利に全身全霊を捧げる所存です。

4.  さて、私は、5年前の参院選挙に際し、「小泉内閣の『聖域なき構造改革』とは、経済のグローバル化に伴って大企業の国際的競争力を高めるために、@あらゆる産業・企業でリストラ合理化を推進するものであり、その結果『弱肉強食の競争社会』が作り出され、その延長線上に憲法第9条を改悪して『戦争のできる国づくり』を進めるものだ。Aいま一番必要なことは、雇用の安定と、現在と将来の暮らしに安心を保証する『国民生活優先の政治』であり、同時にアジアと世界の平和を確かなものにする『平和憲法を活かす政治』のはずだが、小泉改革はこれに全く逆行するものだ。Bこうした小泉改革に対決するために、私と社民党に力を与えてほしい、共に立ち上がってほしい―と全国で訴え続け、当選させて頂きました。

5.  当選以来5年間、私は今年の通常国会まで199回質問に立って政府を追及し、また党の幹部として、こうした小泉政治と厳しく対決してきました。しかし残念ながら、わが党の議席が余りにも少ないこと、そして野党第一党の民主党が、前原前代表の「自民党とは(基本政策の)8割は一致している」とういう言葉に象徴されるように、小泉内閣と同じ土俵で「改革競争」を展開する下で、小泉内閣の反国民的・反動的政治を食い止めるに至らなかったことは、率直に報告せざるを得ません。
 そこで、5年余の小泉政治をここで総括・検証することが、「小泉改革を継続・加速する」という安倍政権が何を目指しているかを見る上でも重要だと思います。

(1) 国民の暮らし破壊はどう進んだか
1.  6月末に一斉に株主総会が開かれましたが、東証一部上場企業は3期連続で過去最高の利益だと報じられています。その要因は、凄まじい首切り・賃下げ・労働条件の改悪と輸出増大などによるものです。また、今日のGDP(国内総生産)はバブル期を凌いで約510兆円に上ります。これは、赤ちゃんも含めて国民一人当たり約400万円、4人世帯であれば約1600万円という計算になります。今日お集まり頂いた方々の中に、それほど所得のある方がどれだけいらっしゃるでしょうか。

2.  しかし、こうした景気回復の下で、@完全失業者は依然270万人、アルバイト・パート・臨時、契約・派遣などの身分不安定で低賃金の非正規労働者は1650万人、勤労者の3分の1に膨れ上がりました。ヨーロッパの労働者から見れば“日本に労働運動があるのか”と皮肉られそうです。Aそのため勤労世帯の収入は8年連続で低下ないし停滞し、特に生活保護基準以下と言われる年収200万円以下の世帯が19%、なんと5世帯に1世帯にも広がり、また預貯金ゼロの世帯も24%で4世帯に1世帯と拡大しました。Bそして依然、自殺者は年3万人を超えているのです。先進国の中でこんな国があるでしょうか。
 そのために、親の経済的困窮から文房具・給食費・修学旅行費などの就学援助費を受ける子どもがこの5年間で37%も増えて約134万人(04年度)に上ります。東京・大阪では4人に1人です。東京の足立区では42%ですが、そのある小学校で6年生に卒業記念で「将来の夢や希望」について作文を書かせたら3人に1人が何も書けなかったと報告されています。親が貧困ゆえに12歳の子どもの時から夢や希望が持てないという希望格差社会、貧困の世代間継承の現実化はわが党の当初からの指摘どおりであり、小泉政治の重大な失政です。安倍氏も「教育再生」などを語る資格はない、と言うべきでしょう。

3.  7月末の日曜日、NHKが「ワーキングプア」という特集を組みました。“働く貧困層”という意味です。例えば、認知症の妻を施設に預ける70歳台の洋服店主は、生活保護の申請が受理されませんでした。それは妻の葬儀費用を貯めているからだという理由からでした。これでは、まるで「妻を殺してお前も死ね」と言われているのと同じです。
 また50歳でリストラ・解雇にあった男性は、男手一つで二人の男の子を育てているが、夜も昼もアルバイトして月収20万円だという。将来は弁護士になりたいという子どもを大学にやれそうにもないと嘆いていました。そして職を求めて東京に出てきた30歳台の男性は、職を得られず毎日雑誌を拾っては古本屋に売って食費を稼ぐのに精一杯だと寂しく笑っていました。
 その番組ではこうした実態が生々しく映し出されていました。私は、遊説先の秋田でこれを見たのですが、改めて小泉政治の反国民性に憤りを覚えると同時に、政治に携わる者の一人として、申し訳なさで胸が塞がる思いでした。
 憲法第25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定し、政府に国民の[生存権]保障を義務付けていますが、紹介した洋服店主夫妻にそれは全く保障されていません。
 また第26条は「すべて国民は、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」と国民の[教育権]を国に義務付けていますが、先のリストラに遭った男性の子ども達にそれは全く保障されていませんし、それに等しい子どもたちが134万人にも上るのです。
 そして憲法第27条は「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」と国民の[勤労権]保障を義務づけていますが、先の30歳台の男性をはじめ約270万人の完全失業者にその権利は保障されていないのです。
 皆さんの老後が、あるいは子どもや孫たちがこうならないという保証はあるでしょうか。これが「小泉改革」の実相なのです。もっと皆が怒るべきです。
4.  ご承知のように、資本主義経済の本質は弱肉強食です。自動車メーカーで言えば、日産よりもホンダが、ホンダよりもトヨタが、一円でも多く儲けようと叩き合っています。だから当然、所得格差が生じます。これを放置すれば、失業手当や生活保護費が増大し、社会的不安や犯罪が広がり、社会の持続的発展はありませんから、大企業や大金持ちから応能負担の原則によって税金を納めてもらって社会保障や福祉の拡充で所得の再配分を行いながら、最低賃金制であるとか労働時間など非人間的な働き方を規制するなどで、この格差を縮めることが政治の重要な使命なのです。少なくとも80年代までは、社会党・総評ブロックの強力な闘いもあって、自民党政権もその努力を一定程度払ってきたのです。だから格差の少ない社会という意味で「一億総中流」と言われたのです。
5.  しかし、小泉首相は、「格差は別に悪いことではない。どんな社会にも格差はある」とか「成功者を妬む、能力のある者の足を引っ張る風潮は慎め」と開き直りました。こんな感覚だから、医療・年金・介護や福祉を相次いで改悪し、また高額所得者の所得税の最高税率の70%から37%への引き下げや法人税の40%から30%への引き下げはそのままに、庶民への定率減税を廃止し、そして老年者控除を廃止して年金生活者にも税金をかけて何とも思わないのです。加えて、先の国会で行革推進法を強行してさらに公共サービスを切り捨て、そしてまた安倍政権も来年の参議院選挙後には消費税率の大幅引き上げ ―自民党税調案は12〜15%― などを進めようとしているのです。大金持ちの所得税や3期連続で過去最高の利益を上げている大企業の法人税の最高税率を元に戻すだけで10兆円を超える増収があると言われます。また私が昨年発表した特別会計からの財源捻出は向こう10年・年間6.5兆円が可能です。消費税を上げる必要などまったくありません。
 以上のように、小泉政治は弱肉強食の資本の論理そのものであり、国民に安全・安心・安定を保証する政治を端から放棄してきたのです。だからこそ私たちは、「小泉内閣は国民生活ぶっ壊し内閣だ」と言ってきたのです。
 余談ですが、私は党の幹事長を務めている関係で自民党の長老議員と話す機会がありますが、その人々の中には「幹事長、我々も昔は社会党・総評の要求を取り入れて社会民主主義的政策をやってきた。だが小泉君はその社会保障や福祉制度を次々と壊している」と嘆く政治家もいるのです。

(2) 「戦争のできる国づくり」はどこまで進んだか
1.  次に、戦争のできる国づくりはどこまで進んできたか―です。
 ご承知のように、小泉内閣は、@集団的自衛権の行使を禁じた憲法に反して01年にテロ特措法を強行してアフガニスタン攻撃の米・英軍の後方支援に踏み出し、 A03年から04年にかけて戦争準備法である有事関連の10の法案を強行し、 B03年には国連憲章(2条=体制転覆禁止、51条=自衛以外の戦争禁止、42条=国連決議なき攻撃禁止)違反である米・英軍のイラク攻撃を支持してイラク特措法を強行し、自衛隊を多国籍軍に参加させました。 Cのみならず今年5月、国会・国民に何一つ説明もしないまま、在日米軍再編とその経費3兆円の支払い、米陸軍第一軍団司令部の日本移設をはじめ日本を全面的に米軍の前線基地・司令部化する日米軍事一体化に合意しました。つまり憲法違反の既成事実をハイスピードで進めてきたのです!
2.  他方で、自民党は、昨年11月の立党50年大会で新憲法草案を決定しました。
 その内容はここでは触れませんが、改正ではなく現憲法の理念と3原則を覆す大改悪、新たな憲法を制定しようというのです。(※1)
 そして小泉内閣は、こうした狙いに沿って164通常国会に、619の刑事犯罪に該当する件について相談しただけで罪になる共謀罪の新設、子どもに戦争・人殺しを植え付ける歪んだ愛国心教育の教育基本法改悪案、憲法改悪のための国民投票法案、防衛「省」昇格法案を提出しました。これらは、わが党などの奮闘によって成立を阻止しましたが、継続審議で秋の臨時国会が正念場になります。
 それだけではありません。4月26日、米国のラムズフェルド国防長官は額賀防衛庁長官に「日本ほどの経済大国の軍事費がGDPの1%というのは少な過ぎる。米国は4%だ」と求めました。現在4.8兆円の軍事費を4倍にし、米国の戦争に戦費負担を求めているのです。だから小泉内閣は、在日米軍再編の経費に3兆円もポンと払うというのです。年間20兆円近い軍事費、仮にその半額にしてもどう調達するのか。社会保障や福祉、公共サービスの一層の切り下げや消費税の大幅税率アップの策動は、ここからも出てくるのです。
 このように小泉内閣は、国民生活破壊に加え、対米追従・平和憲法ぶっ壊し内閣といわずして何と言うべきでしょうか。

(3) 日本の防衛・外交上の諸問題
1.  ここで若干、日本の外交・安全保障問題に触れておきたいと思います。
 先ず、日本が憲法を改悪して「戦争のできる国」にする理由があるか―です。
 全くありません。私は、3年前の有事法制審議の際、小泉首相らに「冷戦時代でさえ、戦時法制は不要であったが、いま何故必要になったというのか、納得行く説明がない。憲法で戦争放棄を宣言している平和国家・日本を一方的に攻めようとすれば、その国自身が世界中を敵に回し滅亡する覚悟がいる。そのような愚かな国があるのか」と追及しましたが、“壊れたレコード”の如く「備えあれば憂いなし」と繰り返すだけで、答えられないのです。
 そもそも、憲法で戦争放棄を世界に宣言し「専守防衛」に徹する日本を一方的に攻撃するならば、9・11テロにかかわったアフガニスタンの例に見るように、世界中を敵に回しその国自身が壊滅することは必定です。今日それほど愚かな国はありません。北朝鮮のミサイルや核開発は北東アジアの平和と安全を脅かすものとして私たちも厳しく批判していますが、彼らとて自らが壊滅する危険を冒して日本を一方的に攻撃する理由はありません。
 つまり憲法9条のお陰で、日本が他国から攻撃される恐れはないのです。だからこそ政府は、冷戦時代でも安心して53 基も危険な原発を建設してきたのです。万一、どこかの国と戦争になり、その国が日本を攻撃する場合、空と海から猛爆をかけるのが現代の戦争です。その際、最大の戦果を挙げるため、相手は当然、日本の原発と軍事基地を狙います。原発1基爆砕されれば広島型原爆の1000倍以上の被害が出ますが、例えば日本列島ど真ん中の福井県の15基の原発が空爆されたら、日本の中央部は壊滅するでしょう。このことを忘れ、憲法9条を変えて日米軍事一体化を進めることはまさに挑発であり、この前提条件が崩れることは明らかです。
2.  もう一つ、北朝鮮問題です。
 私は、03年、土井前党首らと訪韓し、金大中、盧武鉉両氏と会談しました。その折、新旧両大統領は「北(朝鮮)の経済力は韓国の25分の1(日本のGDPの200分の1=国民一人当たり約20万円)で、そこに2300万人が食糧不足に喘いでいる。いま北は米国の(「イラン、イラク、北朝鮮は悪の枢軸」との決め付けによる)先制攻撃論に極度に緊張を高めている。だから、軍事的圧力でなく対話で『北の体制維持の保障と経済援助と核開発放棄』を一体で解決すべきだと米国を説得している。もし北の体制が崩壊すれば、何百万もの難民が(韓国や中国、ロシアなどに)押し寄せて経済は破綻すし、軍事的圧力で北を暴発させれば朝鮮半島は火の海になる」旨を力説された。また日本については、「拉致事件もあるが、かつての植民地と未だに国交がないこと自体、不正常だ」とも指摘された。私たちの認識と同じです。また04年に、私が団長で中国を訪問しましたが、わが党は対話と協力による『北東アジア総合安全保障機構』の創設と日本・韓国・北朝鮮・モンゴルの『非核地帯宣言』を提唱し、意見の一致を見ました。北朝鮮問題や東北アジアの総合安全保障問題については中国、韓国とも意見の一致をみました。(※2)
 北朝鮮による日本人拉致事件は、人権侵害の国家犯罪であり決して許すことはできません。いまだに「直ちに北朝鮮に経済制裁を」「拉致問題の解決無くして国交正常化なし」が声高に叫ばれています。しかし、それで問題は解決するのでしょうか。
 ご承知のように、日本は、1910年の日韓併合以来36年間、朝鮮半島を植民地支配し、皇民教育(天皇の民としての教育)、創氏改名(日本名への改名)をはじめ数多くの蛮行を重ねました。また何十万もの人々を日本へ強制連行(拉致)してトンネル工事や炭鉱などで酷使したり、また多数の若い女性を従軍慰安婦(性的奴隷)にしてきた重い戦争責任があるのです。敗戦後、歴代日本政府は、ソ連、韓国、中国をはじめアジア各国とは戦争の謝罪と一定の経済援助・補償をもって国交を回復してきましたが、北朝鮮に対しては、米国に追従して戦後61年経つ今日に至るも国交を回復せず、むしろ敵対(仮想敵国視)して、国連加盟192か国中「最も近くて最も遠い国」の関係で放置してきたのです。
 こうした歴史事実に目を閉ざし、拉致事件だけを取り出して非難・糾弾しても、それこそ埒が明きません。もし国連の場にこれを持ち出したら、いまだに戦争の謝罪と補償を続けるドイツと、過去の植民地支配や戦争の謝罪・清算もしていない日本は比較され、世界の嘲笑を買うでしょう。だから、昨年の6ヵ国協議でも、拉致問題にこだわる日本は孤立したのです。
 ですから、拉致事件の早期解決(全容解明と謝罪・補償)のためにも、日本の過去の侵略と植民地支配についての反省と謝罪・補償を前提に、02年の『平壌宣言』に基づく粘り強い国交正常化交渉が求められるのです。しかし小泉内閣、そして安倍内閣は、日米軍事一体化と改憲のために北朝鮮をむしろ利用しているのです。

(4) 政治を変えるための当面の課題
1.  以上のように小泉内閣は、一握りの多国籍大企業の利潤拡大のために、「改革」という言葉で勤労国民を幻惑して果てしないリストラ・合理化と年金・医療・介護や福祉を切り捨て、国民生活の低下や破壊をもたらし、併せて憲法を改悪して「戦争のできる国」への転換を急いできたのです。そして、安倍内閣にこれが継承・強化されようとしています。これを打破するために、私たちは何をすべきでしょうか。

2.  第1は、国民の暮らし破壊に対する反対闘争の強化です。
 小泉改革によって格差が拡大し、いまや多くの国民が生活・雇用・将来不安を抱いています。しかし、政治に向くべきこの不安や不満が、「改革」の美名に騙され、また正規と非正規、官と民などの巧妙な分断・対立攻撃に乗せられ、表面化してきません。しかし不満は鬱積しています。
 したがって、いま必要なことは、安心できる年金や医療制度の確立、消費税大幅アップ反対・不公平税制の是正、正規雇用の拡大、均等待遇や最低賃金引き上げなどの声を大きく上げ、また労働組合が官民分断攻撃に騙されず、企業や産業を超えて、こうした国民共通の「○大要求」の署名運動や大衆行動を地方から起こし、全国の運動に発展させることです。フランスでは、「解雇自由」の政府方針を労働組合や学生のストライキ・デモで撤回させました。勤労者の32%もが非正社員・低賃金という現実の改善は労働組合の重要な課題ですよ。

3.  第2は、広範な改憲阻止のネットワークづくりです。
 昨年10月5日の毎日新聞によれば、国民の改憲賛成派は58%で、反対派は34%です。ところが9条改正賛成派は30%で、反対派は62%、依然、1:2です。国会とは逆さです。「戦争のできる国づくり」反対の国民運動を大きく発展させることが大事です。教育基本法と憲法9条改悪反対に国民の過半数を組織することが、当面する最大の政治課題です。
 具体的には、わが党や労働組合・民主団体が中心となって、各県で、5月と11月に、「戦争のできる国に変え、徴兵制を復活する憲法9条の改悪反対」などの新聞意見広告運動(一口1000円)を展開する(今年も25都道府県で取り組まれた)、それに参加頂いた人々を中心に2000〜3000人の「平和憲法を守る(活かす)会」を結成し、県内各市町村に広げていく。これを全国的に結びつけて行けば、必ず改憲を阻止できます。この運動は広がりを見せています。私は昨年11月、憲法問題で「全国1000か所演説会」を提起しました。8月の集約でなんと4700か所に上りました。これを着実に広げていくことです。
 
 今日、「戦争の20世紀」から「平和の21世紀」を創造しようとする世界の平和と進歩勢力の戦いは大きく前進しています。
 例えば、1999年5月に100カ国以上・1万人以上が結集してオランダで開催された平和アピール市民会議は『10の基本原則』をまとめましたが、その第1項に「各国議会は、日本国憲法第9条のような、政府が戦争をすることを禁止する決議を採択すべきである」と記されました。
 また翌2000年5月に国連のNGOミレミアムフォーラムが開催され、その最終報告書でも「全ての国がその憲法において、日本国憲法第9条に表現されている戦争放棄原則を採択することを提案する」とまとめられました。
 そして運動としては、03年2月、米国のイラク攻撃に反対して世界で2000万人を越える市民が起ち上がりました。戦後最大規模の市民の決起で、これが多くの国々の政治に大きな影響を与えました。だから米国のイラク攻撃支えたのは国連加盟192カ国の約20%(37か国)にすぎなかったのです。
 日本では、この大衆運動が立ち遅れています。労働運動や国民運動の強化なくして国会で改憲を阻止することはできません。

4.  第3は、来年の統一自治体選挙と参議院選挙に勝利することです。
 以上申し上げた運動の強化と共に、特に来年の参議院選挙が重要です。参議院の与野党の差は30議席であり、野党側が16以上議席を伸ばせば与野党逆転が実現します。そうなれば、内閣は総辞職をするか、改めて衆議院を解散して国民の信を問わねばなりません。これで衆議院の3分の2以上の与党を過半数割れ、悪くても3分の2割れに追い込むことです。そのため、わが党は私を含めて3人が改選ですが、少なくとも7議席以上獲得することが至上命令です。そのためにはいくつかの1人区を中心に民主党などとの候補者調整も必要です。しかし、民主党との間では、理念・政策が違いすぎるので、相互に公認候補を推薦するような選挙協力はありませんから、いくつかの1人区でバッティングを避ける「バーター」か、反自民・公明の「無所属候補推薦」(政策及び当選後の会派所属は候補者に委ねる)に絞られます。
 いずれにしても、党と日本の将来をかけて参議院選に勝利しなければなりません。そのために、通常国会終了後、私は27府県にわたって全国遊説を続けてきたのです。

5.  ここで、民主党について若干触れておきたいと思います。民主党代表に小沢一郎氏が就いて状況が変わるのではないかと聞かれます。ご承知のように、小沢氏は日本における新自由主義の旗頭です。氏は、かつて99年の自民党・自由党の連立政権で、周辺事態法、日の丸・君が代の国旗・国歌法、盗聴法、憲法調査会設置の国会法改正など、日本の右傾化を象徴する法案の成立を推進してきました。また自らの著書『日本改造計画』では、日米同盟の強化、自衛隊による「国際貢献」、小さな政府、300自治体再編、消費増税…などを提唱してきました。こう見ると、小沢氏と小泉政権の基本政策はほとんど変わらず、むしろ小泉首相はその一部を横取りしてきたのです。つまり小沢民主党が目指すのは、自民党と民主党という二つの保守政党の政権争奪です。したがって我々と民主党の違いは明白です。野党とは本来政権を厳しくチェックする使命があるのですから政府との対決姿勢は当然ですが、小沢氏の場合は参議院選に向けたポーズと見るべきでしょう。

おわりに
1.  最後に、憲法12条は「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」と記しています。
先の大戦で、日本はアジアで2000万人もの人々を殺戮し、また日本人も戦地・内地で340万人の生命が奪われました。一人ひとりが様々な夢や希望をお持ちだったであろうに無残にそれが奪われた。そして国土は焦土と化しました。敗戦を迎えて多くの人々は、戦争を止めることができなかった深刻な反省や、原爆という大量破壊兵器の現出を考えれば戦争は人類の壊滅に至るとの思いなども込めて、戦争放棄・平和主義、国民主権、基本的人権の尊重の3原則に基づく憲法を大歓迎したのです。だからこの12条は、平和の下で人間らしく働き生きるためには政治権力に憲法を守らせるための不断の努力、闘うことが、生きとし生ける者の責務だと記したものと言うべきでしょう。
 憲法第99条は「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う」と定めています。つまり憲法とは、国民が政治権力に「この憲法を尊重し擁護する義務を負」わせているのですが、それを忘れ、国務大臣や国会議員が改憲にひた走っているのです。公務員労働者は憲法を尊重し擁護する義務を有する労働者として、改憲策動に真正面から闘わねばなりません。他の人々は国会議員や政治家たちに「憲法を守れ」と叫ばなければなりません。改めてこの点を再認識し、一人ひとりが奮起しようではありませんか! 今の政治流れは新たな戦前というべき事態なのです!

2.  社民党を支持いただく皆さん、全国あちこちで「又さん、がんばれ!」と激励をいただきます。本当に有難いと思います。私やわが党の議員が頑張ることは当然です。しかしそれだけでは政治は変わりません。皆さんお一人お一人が立ち上がって頂きたい。どうか私たち社民党と共に歩き共に走って下さい。 『憲法を広げる会』に入って下さい。そして入党もしていただき、国民の暮らしと権利、その基盤である平和と民主主義を守ることを党是とする社民党を強く大きくして下さい。
 5〜6年経って、「あの時もっと闘っておけば」と後悔しても遅いのです!「許せないことは許さない」そんな思いを仲間に呼びかけ、一市民としても、労働組合も奮起することが大事です。歴史に照らして正しい道を、私たち社民党と共に力強く歩もうではありませんか。

以 上


※1 自民党の新憲法草案の特徴
1.  第1に、憲法前文に明記された、戦争に対する深い反省の上に決意した「恒久平和」の国民の意思や「平和的生存権」を削除して、代わりに「国や社会を愛情と責任と気概を持って自ら支える責務」を盛り込み、「愛国心」や「国防の責務」を国民に強制するものであること。
 第2に、「戦争の放棄」という第2章の表題を「安全保障」に変え、「自衛軍の保持」を明記し、「国際社会の平和と安全の確保」という名の下、海外での武力行使を可能にし、集団的自衛権の行使を容認していること。
 第3に、主権者たる国民が政治権力(の暴走)を縛る立憲主義の原則を踏みにじり、「公益及び公の秩序」の範囲に国民の権利を規制し、逆に政治権力が憲法を国民統治の道具にする考えであること。
 第4に、憲法改正手続きについて、衆参各議院の3分の2以上の賛成での発議を一般法と同じく過半数に変更し、憲法を改悪し易くしていること…などが自民党案の特徴です。
 なお、民主党の「憲法提言」も、9条を改悪という点では、自民党と同じです。

2.  このように、憲法改悪なり新憲法制定の最大の狙いは第9条です。それは第9条第2項の「戦力不保持」を180度転換して軍隊を保持し、集団的自衛権の行使に踏み出すことですが、もしそうなればどんな事態が起こるでしょうか。

 まず第1に、「専守防衛」の自衛隊が「戦争遂行」の軍隊に変われば、例えばイラク派遣の自衛軍は、人道復興支援ではなく米軍と共に戦闘に参加し、当然、相手国の国民を殺し、自衛軍にも犠牲者が出ることになります。
 第2に、米国は、中東から北東アジアを「不安定の弧(地域)」と勝手に規定し、これに即応する米陸軍第1軍団司令部の神奈川県・座間基地移設をはじめ、在日米軍の再編と日米軍事一体化を求めてきました。政府は5月1日、日米協議でこれに合意し、合せて在日米軍の再編にかかる経費3兆円分を日本が負担すると約束しました。つまり日本を全面的に米軍の前線基地であり司令部にするというのです。この既成事実の上に早く9条を変えようというのです。
 第3に、米国は国連憲章51条違反の先制攻撃論を取りイラクを攻撃しました。9条を改悪して日本が米軍の前線基地・司令部化すれば、米国が始めた戦争で敵視された国―例えば北朝鮮やイランは「やられる前にやってしまえ」と、日本を攻撃することになります。また海外の日本人もテロの標的となります。
 第4に、9条の改悪は「戦争のできる国」を許容する国内秩序が不可欠です。だから自民党案は、国民に「国防の義務」を課し、「愛国心」教育を進め、「公益」の名で国民の権利制限を狙っているのです。
 このように、9条改悪は、日本を「戦争放棄の国」から「戦争のできる国」に大転換し、合せて国民の暮らしや権利、民主主義を今以上に壊すことなのです。

※2 社民党の平和創造政策
 私たち社民党は、改憲ではなくて現実を憲法理念に着実に近づけていく次のような平和創造政策の実現を図り、日本が21世紀の世界の平和構築に向けて積極的な役割を果たすべきだと考えます。
1.  北東アジアに信頼と協調による多国間の総合安全保障機構を創設し(当面、日本、韓国、朝鮮、中国、モンゴル、ロシア、カナダ、アメリカを想定)、国際紛争が生じた場合は平和的話し合い、武力不行使を前提とする。併せて北東アジアの非核地帯化の共同宣言を実現する(当面、日本、韓国、朝鮮、モンゴル)。
2.  この進展に対応して、日米安保条約を平和友好条約に転換する。また在日米軍基地を縮小・撤去していく。
3.  これを前進させるために日本は、「非核・不戦国家宣言」を衆・参両院で決 議し国連総会で認知を求める(同様の立場をとる国を広げていく)。
4.  そして、肥大化した自衛隊の規模や装備は、当面、領海・領空・領土を越えて戦闘する能力を削減し改編・縮小する(将来的に、国境警備、国土防衛、災害救助、国際平和協力などに改編)。その「平和の配当」を人道支援に充当する。
5.  朝鮮半島への植民地支配と侵略の謝罪・補償を前提に、早期に国交正常化を進める…などです。

※3 安保理事国、靖国参拝、国際貢献
1.  日本の国連安保常任理事国入りについては、世界の平和を創造する国連の機能と役割を強化するために積極的に役割を果たすというのであれば、賛成です。そのためには条件があります。
 条件の第1は、憲法9条の精神を堅持し国連に反映して貢献すること、第2は、アジア諸国への侵略の歴史を踏まえてその理解を得、アジアの平和と安定に貢献することーこれを両院で決議することが不可欠です。
 しかし現実は、小泉内閣がひたすら米国に追従し、憲法9条を改悪して多国籍軍に参加しようという姿勢であり、それがまたアジア諸国の不信と警戒を招き、韓国・中国から反対され、他の国々からも「日本が安保常任理事国に入っても、アジアを代表せず米国の一票が増えるだけだ」と揶揄されているのですから、今の政府ではこの2条件の実現性はなく、反対せざるを得ません。
2.  小泉首相の誤った歴史認識や靖国参拝で、中国や韓国はじめアジア諸国との関係が悪化しています。今年は8月15日に参拝する模様です。
 そもそも靖国神社は、明治2年以来、陸・海軍による護持の下で、軍国主義を賛美する神懸かりの装置でした。だから戦後、かかる国家神道の過ちを繰り返さぬために憲法第20条で「政教分離の原則」が謳われ、靖国神社も一宗教団体になったのです。こうした軍国主義を賛美する歴史的存在であると共に戦争指導者であるA級戦犯が合祀された靖国神社を首相が参拝すること自体、一昨年の福岡地裁や昨年の大阪高裁の判決に見るように、憲法違反なのです。だから、来日した世界の元首誰一人靖国神社を参拝しないのです。同時に、日本の植民地支配や侵略戦争で惨禍を蒙った中国、韓国・北朝鮮はじめアジアの人々から見れば、日本の政治指導者が口では「戦争への反省と謝罪」を言いながら、他方で軍国主義・侵略戦争を美化する靖国参拝を繰り返す行為は、まさに欺瞞であり、憤りと不信を募らせることは当然のことです。
 しかし小泉首相は、A級戦犯が合祀されて以来、天皇さえ参拝を遠慮していること、また01年の参拝後、金大中・盧武鉉両韓国大統領に「靖国神社に替わる追悼施設の検討」を約束してきたこと、そして何よりも自らの参拝によって失う必要のないアジアの人々の信頼と「国益」を損ねていることも顧みず、逆に「どのような追悼の仕方がいいかは、他の国が干渉すべきでない」、「憲法19条には思想及び良心の自由が保障されている」、「A級戦犯の話が度々論じられるが、『罪を憎んで人を憎まず』だ」などと開き直り、火に油を注いでいる始末です。そもそも、『罪を憎んで…』のことわざは、被害者が加害者を許す際の言葉であって、加害者側が言うべきことではありません。一知半解です。
 これはもはや、政治でも外交でもありません。小泉純一郎個人の誤った歴史認識と独善主義が、国論を二分し、アジア諸国民の感情を傷つけ、外交を歪めて「国益」を大きく損なっているのです。
 戦後61年も経た今日、首相が為すべきは、過去の過ちへの痛切な反省と謝罪の証として靖国神社への参拝は行わないことを内外に明言すると共に、兵士と一般人、日本人と外国人を問わず、全ての戦没者を誰もが追悼し平和を誓い合える無宗教の施設を整備・建設することです。
3.  世界第2位の経済大国となった日本が積極的に国際貢献を行うことは当然ですが、現在叫ばれる「国際貢献」論は、自衛隊を軍事展開させるための隠れ蓑です。私たちは、今述べたように、紛争予防の外交努力、発展途上国へのODA(政府開発援助)を含む経済建設の援助、自衛隊と切り離した大規模災害などへの緊急援助隊の派遣、紛争後の選挙監視や社会建設への国際平和協力隊の派遣など、非軍事面での貢献策はたくさんあるし、平和憲法を持つわが国はこうした協力こそ重視すべきです。これらは、自衛隊ではない非軍事組織とNGOの協力で行うことこそ実効性があります。
 日本は、戦後60年余り、いかなる国や地域の紛争に武力介入せず、一人も殺さず殺されることもありませんでした。また武器輸出も核武装もしてこなかった。そして生み出された経済力の一部をODAなど発展途上国の支援に充ててきました。だからこそ世界の中で論理的正当性を持ち、尊敬と信頼を勝ち得、世界の一方のリーダー足りえたのです。この道こそ日本のとるべき道です。