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はじめに
9月26日、小泉内閣に代わって安倍内閣が発足しました。
安倍首相は、「戦後レジーム(体制)からの脱却」を唱え、日米同盟の強化、集団的自衛権の見直し、教育再生、さらには憲法改正を政治日程に乗せていくなどと表明しました。そしてその具体化としてこの臨時国会で、歪んだ「愛国心」を子どもに植え付ける教育基本法改悪案、憲法改悪の手続き法である国民投票法案、防衛庁を「防衛省」に昇格させる法案など、憲法体制を覆す反動諸法案を押し通そうとしています。こう見ると、安倍首相の言う「戦後レジームからの脱却」とは「新たな戦前体制」ということに他なりません。だから私は、安倍内閣発足時の記者会見で「安倍内閣は希に見る反動・タカ派内閣だ」と言ったのです。
そこで今回は、日本の外交・安全保障について述べます。
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1. |
憲法を変えて「戦争のできる国」になる理由はない
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(1) |
まず、日本が憲法を変えて「戦争のできる国」になる理由はあるか―です。
私は、3年前の有事法制審議の際、小泉首相らに「冷戦時代でさえ戦時法制は不要であったが、今なぜ有事法制が必要なのか、納得行く説明がない。そもそも憲法で戦争放棄を宣言している平和国家・日本を一方的に攻めようとすれば、その国自身が世界中を敵に回し滅亡する覚悟がいる。そのような愚かな国があるのか」と追及しましたが、壊れたレコードの如く「備えあれば憂いなし」と言うだけで答えない、いや答えられませんでした。
憲法9条で戦争放棄を世界に宣言している日本をどこかの国が一方的に攻撃するならば、9・11テロに関わるアフガニスタンや大量破壊兵器保有の疑いで攻撃されたイラクの例のように、その国が世界中を敵に回し壊滅することは灯を見るよりも明らかです。今日それほど愚かな国はありません。 |
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(2) |
しかし、日本が憲法9条を変えて米国と一緒に「戦争のできる国」に転換すれば、この大前提が崩れます。もし米国が引き起こす戦争に巻き込まれて日本がどこかの国と戦争になった場合、相手は、当然、日本の原発と軍事基地を狙います。原発1基爆砕されれば広島型原爆の1000倍以上の被害と言われます。万一、福井県の15基の原発が空爆されたら、日本の中央部は壊滅するでしょう。
だが、憲法9条によってその恐れはないという確信があったからこそ、政府はこれまで危険な原発を53 基も建設することを推進してきたのです。 |
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2. |
北朝鮮の瀬戸際外交への対処
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北朝鮮のミサイルや核実験は、いかなる国の核実験にも一貫して反対し核廃絶を目指してきたわが党の基本姿勢からも、また05年の『6か国共同声明』や02年の『日朝平壌宣言』に違反し北東アジアの平和を脅かし不安定化を煽る行為であることからも、断じて許せません。だから私たちは、国連安全保障理事会が国連憲章41条に基づく非軍事的制裁に限定した決議を採択したことに賛成しました。この制裁決議の目的が、北朝鮮が国連加盟国として国連安保理の決議に従い、核開発を中止し核実験を二度と行わないことを強く求めているからです。この決議で国際社会が厳しい姿勢を示しつつ、北朝鮮が6か国協議に復帰できるよう柔軟かつ積極的な外交が求められます。制裁そのものを目的化したり、軍事的圧力のみでは「窮鼠猫をかむ」ことになりかねません。 |
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(2)
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一体、92年の南北会談で朝鮮半島の非核化を宣言していた北朝鮮がなぜこんな瀬戸際外交を採るのかの分析が大事です。それは、米国のブッシュ大統領が、2002年の一般教書演説で、イラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸」と決め付け、国連憲章2条に反する体制転覆の先制攻撃論を公言したことが大きな原因なのです。現にイラクが大量破壊兵器保有の疑いで米国に攻撃された。だからイランや北朝鮮は「次は自分の番だ」と身構え、核開発を急いだのです。つまり超大国・米国の敵視政策と先制攻撃論への対抗上です。
そもそも、自ら1000回を越える核実験を行い、そして米・露・英・仏・中以外の核兵器保有は認めずかつ核軍縮を進めるとしたNPT(核不拡散条約)に反してイスラエル、インド、パキスタンなどの核保有を認めてきた米国のダブルスタンダードそのものも問題なのです。 |
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(3)
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私は、03年、土井前党首らと訪韓し金大中・盧武鉉両氏と会談しました。新・旧両大統領は「北の経済力は韓国の25分の1(日本のGDPの200分の1)で、そこに2300万人が食糧不足に喘いでいる。いま北は、米国の『悪の枢軸』名指しの先制攻撃論に緊張を高めている。軍事的圧力でなく対話で『北の体制尊重と経済援助と核開発放棄』を一体で解決すべきだと米国を説得している。もし軍事的圧力で北を暴発させれば朝鮮半島は火の海になる。また北の体制が崩壊すれば、何百万もの難民が韓国(や中国、ロシアなど)に押し寄せて経済は破綻する」と力説された。つまり、米国が国連憲章違反の先制攻撃論を撤回し、米・朝が「相互主権の尊重と平和共存と国交正常化」に合意すべきだということで、私たちもまったく同感です。この点は昨年の6か国共同声明にも盛り込まれました。
いま、北朝鮮の暴発を防ぎ核放棄を宣言させるためには、同時に米国の外交姿勢の変更が必要であり、韓国、日本、中国、ロシアを含む国際社会がこれを米国に強く求めることが重要です。10月にわが党に来訪した中国共産党代表団も、北東アジアの安定のために日本は米国を説得してほしいと述べました。しかし政府は、こうした声に耳を貸さず、ただただ米国に追従するばかりです。 |
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3.
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拉致問題と国交正常化
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北朝鮮による日本人拉致事件は、人権侵害の国家犯罪であり決して許すことはできません。政府・与党は「拉致問題の解決無くして国交正常化なし」と叫びます。しかし、それで問題は解決するでしょうか。否という他ありません。
ご承知のように、日本は、1910年の日韓併合以来36年間、朝鮮半島を植民地支配し、「皇民教育」、「創氏改名」をはじめ数多くの蛮行を重ねました。また何十万もの人々を日本へ強制連行(拉致)してトンネル工事や炭鉱などで酷使し、多数の若い女性を従軍慰安婦(性的奴隷)にしてきたのです。重い戦争責任があります。
敗戦後、歴代日本政府は、ソ連、韓国、中国をはじめアジア各国とは戦争の謝罪と一定の経済援助・補償をもって国交を回復してきましたが、北朝鮮に対しては、米国の敵視政策に追従して、戦後61年を経た今日に至るも真剣に国交正常化の努力をせず、国連加盟192か国中唯一「最も近くて最も遠い国」の関係で放置してきたのです。
こうした歴史事実に目を閉ざし、拉致事件だけを取り出して非難・糾弾しても、それこそ埒が明きません。国連の場でこの歴史事実が論議されたら、未だに戦争の謝罪と補償を続けるドイツと比較しても、過去の植民地支配や戦争の謝罪・清算もしていない日本こそ、世界の嘲笑を買うでしょう。ドイツのワイツゼッカ―元大統領の名言「過去に目を塞ぐものは、未来にも盲目である」を教訓とすべきです。 |
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ですから、拉致事件の早期解決(全員の帰国、全容解明と謝罪・補償)のためにも、日本の過去の侵略と植民地支配について、反省と謝罪・補償を前提に『平壌宣言』に基づく誠実な国交正常化交渉が求められるのです。
しかし安倍内閣は、過去の侵略と植民地支配の反省と謝罪を忌避し、拉致問題で国民の反北朝鮮感情を煽り、むしろ日米軍事一体化と憲法改悪に利用していると見るべきでしょう。 |
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4.
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日本の国際貢献論・国連安保常任理事国入り
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世界第2位の経済大国となった日本の積極的な国際貢献は、当然です。私たちは、紛争予防の外交努力、発展途上国へのNGO(非政府組織)活動への支援やODA(政府開発援助)による教育・医療衛生・食糧農業・社会福祉・経済建設の援助、大規模災害などへの緊急援助隊の派遣、紛争後の選挙監視や社会建設への国際平和協力隊の派遣など、非軍事面での貢献策はたくさんあるし、平和憲法を持つわが国はこうした協力こそ重視すべきだと考えます。これらは、自衛隊ではない非軍事組織とNGOの協力で行うことこそ実効性があることは、イラク派兵の失敗からも学ぶべきです。
しかし現在叫ばれる「国際貢献」論は、自衛隊を海外へ軍事展開させるための隠れ蓑です。
ですから私たちは、自衛隊の一部を分割して、非軍事組織である緊急災害援助隊や国際平和協力隊(PKO部隊含む)に改編することを主張しています。
日本は、戦後60年余り、いかなる国や地域の紛争に武力介入せず、一人も殺さず、殺されることもありませんでした。また武器輸出も核武装もしてこなかった。そして生み出された経済力の一部をODAなど発展途上国の支援に充ててきました。だからこそ世界の中で尊敬と信頼を勝ち得てきたのです。この道こそ日本のとるべき道です。 |
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日本の国連安保常任理事国入りについては、世界の平和を創造する国連の機能と役割を強化するために積極的に役割を果たすというのであれば賛成です。しかし、そのためには条件があります。
その第1は、憲法9条の精神を堅持して最大限それを国連に反映し、武力行使には加わらないで貢献すること、第2は、アジア諸国への侵略と植民地支配の歴史を踏まえて各国の理解を得、アジアの平和と安定に貢献すること―これを衆・参両院で決議することが不可欠です。
しかし現実は、安倍内閣がひたすら米国に追従し、憲法を改悪して日米軍事一体化を押し進めようという姿勢です。小泉内閣もその歴史認識と外交姿勢からアジア諸国の不信と警戒を招き、韓国・中国から反対され、他の国々からも「日本が安保常任理事国に入っても、アジア地域を代表せず米国の一票が増えるだけだ」と批判されてきたのですから、安倍内閣ではこの2条件の実現性は望めません。したがって国連安保常任理事国入りについては反対せざるを得ません。 |
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社民党の平和創造政策
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私たち社民党は、改憲ではなくて現実を憲法理念に着実に近づけていく次のような平和創造政策の実現を図り、日本が21世紀の世界の平和構築に向けて積極的な役割を果たすべきだと考えます。
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北東アジアに信頼と協調による多国間の総合安全保障機構を創設し(当面、日本、韓国、朝鮮、中国、モンゴル、ロシア、カナダ、アメリカを想定)、国際紛争が生じた場合は平和的話し合い、武力不行使を前提とする。併せて北東アジアの非核地帯化の共同宣言を実現する(当面、日本、韓国、朝鮮、モンゴル)。
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この進展に対応して、日米安保条約を平和友好条約に転換する。また在日米軍基地を縮小・撤去していく。
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これを前進させるために日本は、「非核・不戦国家宣言」を衆・参両院で決 議し国連総会で認知を求める(同様の立場をとる国を広げていく)。
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そして、肥大化した自衛隊の規模や装備は、当面、領海・領空・領土を越えて戦闘する能力を削減し改編・縮小する(将来的に、国境警備、国土防衛、災害救助、国際平和協力などに改編)。その「平和の配当」を人道支援に充当する。
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朝鮮半島への植民地支配と侵略の謝罪・補償を前提に、早期に国交正常化を進める…などです。
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わが党は、こうした平和創造政策を韓国、中国、モンゴルなどに首脳外交の中で提起し、基本的に賛同を得ています。その成果は、例えば昨年の『6か国共同声明』の第4項に、「6か国は、北東アジア地域の永続的な平和と安定のための共同の努力を約束した。…6か国は、北東アジア地域における安全保障面の協力を促進するための方策について探求していくことに合意した。」という文言として取り入れられてきているのです。こうしたわが党の先見性と外交努力はますます重要になってきています。 |
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