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政府・自民党が挙げて公務員バッシングを展開してきている。
例えば、森元首相は産経新聞(昨年10月31日)のインタビューで「日教組、自治労を壊滅できるかどうかということが次の参院選の争点だ」と述べ、大きな記事になった。また自民党中川政調会長も、毎日新聞(同10月23日)のインタビューで「…集会の自由は憲法上の権利だが、デモで騒音をまき散らす教員に児童・生徒の尊敬を受ける資格はない。免許剥奪だ」と居丈高になり、そして「社会保険庁も一部の悪性腫瘍が存在している。組合員が自治労。この実態をまず退治しなければいけない」(朝日新聞同11月24日)と騒いでいる。
この面々は、憲法第28条の労働基本権を承知の上で「壊滅」「免許剥奪」「退治」などと悪罵を投げつけているのだから、「憲法を尊重し擁護する義務」(第99条)を守る意思がないことを自ら証明する、国会議員失格の人々である。
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これらの発言の火付け役は、自民党の中川秀直幹事長である。中川氏は、10月2日の総理大臣所信表明演説に対する代表質問で、「財務省の調査によれば、全国の地方公務員の給与は、それぞれの地域の従業員百人以上の民間企業で働く人々よりも、平均で21%も高いという結果が出ております。とりわけ、東北地方や九州地方では、地方公務員が地域の民間給与よりも3割から4割近くも高い給与をもらっている…。早急に是正しなければならない。…公務員の民間並み合理化をすれば、2011年度の基礎的財政収支黒字化に必要な増税額を限りなくゼロに近づけることができるのではないかとも考えます。こうした観点から、総理が、公務員の民間並み合理化の障害になっている公務員の労働基本権の制限の見直しを表明されたことを高く評価するものであります」と演説している。
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これら動きを受けて、安倍首相は年末に「地方公務員の賃金を抑制するよう」菅総務大臣に指示した。
一体なぜ今、こんなでたらめな公務員攻撃なのか。なぜ「日教組、自治労の壊滅」が「参院選の争点」なのであろうか。
今夏の参議院選挙は与野党逆転が最大の焦点だから、民主党を支援しているこれらの組合の足を止めるためだと言われるが、それは皮相な見方ではないか。もっとも「公務員賃金の2割削減」論は、2年前に民主党が大衆迎合で打ち出した方針だから、これにいまさら反対もできず、それを見越した攻撃の側面はあろう。
しかし私は、この攻撃の本質は、自治労や日教組などの官公労働者が憲法第99条で「憲法を尊重し擁護する義務」を職務上負っており、現に護憲運動の中心として全国各地に一定の影響力を持っているから、これを「壊滅」(弱体化・沈黙)させて護憲勢力を骨抜きにしようという狙いが本質だと考える。
周知のように、安倍内閣は、「戦後体制からの脱却」を掲げ、「憲法改正を政治日程に乗せる」と言明して登場した。そして先の臨時国会では、歪んだ愛国心を植え付ける教育基本法改悪案と防衛庁の「省」昇格法案を強行採決し、また憲法改悪準備法である国民投票法案、共謀罪創設法案などの成立を目指している。
こうした情勢の下での、従来とは異なる公務員バッシングだということを、護憲勢力や当該の官公労働組合はしっかり認識する必要がある。
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そこで、中川幹事長の代表質問の問題点・意図を検討してみよう。
まず中川氏は、「財務省調査によれば、地方公務員の給与は、従業員百人以上の民間企業で働く者よりも21%も高い」と指摘している。これは正しいか。
私は、昨年10月31日、参院総務委員会でこの点を追及した。「公務員の給与は、同種同等の業務を行う民間企業の従業員の給与を人事院あるいは人事委員会ができるだけ広く把握をして、そしてこれを適正に反映させる勧告を通して決定されている、こういうことですね。言い換えれば、職種別、役職別の民間給与実態調査に基づいてラスパイレス方式で決定をされているというわけですが、中川さんが引いたこの財務省の資料(厚生労働省の「賃金構造基本調査」)というのは、企業規模は100人以上で合わされてはいるけれども、職種別、役職別も正社員も非正社員も関係なく集計したものであって比較対象にはなり得ない、そういうものだということですね」という私の問いに対して、総務省の上田公務員部長は「公務と民間企業では、それぞれ職種、役職段階の人的構成、年齢構成、学歴構成等が異なる。このように、異なる集団間での給与比較を行う場合には、それぞれの集団における給与の単純平均を比較することは適当でなく、一般的と考えられる給与決定要素の条件を合わせて、同種同等の者同士の給与を比較すべきであるとされております」と答えている。また11月9日には「『…非常にひどいのは、男女の賃金格差が、この厚生労働省の比較(資料)でいうならば57%もあるということだ。下げろというなら、…極端に言えば民間並みに公務員も男女差別をしなさいよと、こういうことを言うのか。正にこんな馬鹿なことを言う人はいるわけがないでしょう』、こういうふうに私は(昨年)言ったんですが、残念ながらこんな馬鹿なことを言う人がいた。それが中川幹事長の発言だった」と断じたのである。
しかし中川氏は、この「比較対象にはなり得ない」資料を承知の上で、テレビ入りの代表質問で、国民に「公務員給与は高すぎる」と印象づけを行ったのである。
ちなみに、人事院が自民・公明、民主の政治圧力に屈し、従来からの同種同等の業務を行う「100人以上」の民間企業の正規従業員との比較を今年度「50人以上」に引き下げたため、公務員の平均4,252円の賃上げは幻となったのである。
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次いで中川氏は、「公務員の民間並みの合理化をすれば、2011年度の基礎的財政収支黒字化に必要な増税額を限りなくゼロに近づけることができる」と攻撃する。
これは、「国・地方を合わせて800兆円もの赤字や少子高齢社会における福祉の増大を考えれば増税は避けられない」という宣伝に乗せられた人々に、「公務員の合理化・賃下げで、増税は必要ない」と吹き込み、官民分断を図ろうというのである。
だから私は、委員会で「そうすると、この比較対象にならないものを比較して、公務員の賃金が高い、それを下げれば増税は要らなくなるんだ、こうまで(中川氏は)おっしゃるわけですから、これは大変な政治不信を招いたり、混乱を招く」と厳しく批判したのである。
さらに中川氏は、「公務員の民間並み合理化の障害になっている労働基本権の制限の見直しが必要だ」と言及する。つまり公務員バッシングを徹底し、抵抗も反撃もできないようにした上で、形式的に労働基本権を付与し、賃下げも労働条件の改悪も、そして首切りも徹底しようということに他ならない。
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こうした公務員攻撃への反撃を、今こそしっかり組織しなければならない。
従来から、政府の失策から国民の目をそらすために公務員攻撃は常にあったが、以前と違うのは、小泉改革による格差拡大によって、今日、280万の完全失業者や低賃金・劣悪な労働条件の1680万非正規労働者が生み出され、全勤労者の3分の1を超える現実があるということである。つまりこうした公務員攻撃が国民の中に浸透する素地が大きく広がっていること、そしてまたこうした不当な攻撃に反撃すべき労働運動の共闘・支援体制が大きく後退していることに留意すべきであろう。
その上で、当面、次のような反撃・運動が必要ではないか。
第1に、今日の公務員バッシングの本質は、自治労や日教組などの官公労が護憲運動の中心であり、地域に一定の影響力を持っているから、これを「壊滅」(弱体化)して護憲勢力を骨抜きにし、改憲を押し進めることにあるということを、まず官公労内外にしっかり浸透させ、認識統一することであろう。
第2に、敵の攻撃は個別的であるが、その本質が上記のとおりだから、官公労の統一闘争・相互支援が不可欠である。「教育基本法改悪は日教組が頑張れ」でなく、官公労はじめ護憲勢力全体が共に闘うことが大事だ。かつての公労協が時間差で各個撃破されてきたことを教訓にすべきであろう。
第3に、「公務員給与は高すぎる」というデマ宣伝に対する反論を、公務員労働者全体が確信を持てるように、教宣活動を強化すること大事である。と同時に、仮に公務員賃金をもっと引き下げたからといって、非正規労働者や零細な商工業者の所得が上がるわけではない。喜ぶのは、公務員の賃下げに連動して勤労者全体の賃下げを狙う大企業の経営者たちである。この点の宣伝も必要である。
今年のGDP(国内総生産)は約510兆円と見込まれる。これは国民一人当たり約400万円、4人世帯ならば1600万円の年収という勘定になるが、一生懸命働いても年収200万円以下の世帯が19%にも上る現実がある。あまりにも低すぎるこの人々の賃金や労働条件の改善こそが必要であり、共に闘う呼びかけと、最低賃金制の抜本改正や均等待遇を求める組織労働者の具体の運動が重要であろう。
第4に、今日の財政危機の原因とその克服策の宣伝活動である。
国・地方合せて800兆円もの莫大な借金は、歴代自民党政権の10年余の公共事業拡大などが原因である。彼らはその責任に頬かむりし、そのつけを消費税率の大幅アップで穴埋めしようとしている。しかしこれは、国民とりわけ低所得層の反発を招くことになる。そこで彼らは、一方で少子高齢社会の進展で福祉を維持するために増税は避けられないと宣伝し、もう一方で公務員に責任を転嫁して公務員も「民間並みの合理化をすれば、…必要な増税額を限りなくゼロに近づけることができる」とキャンペーンを展開していることは、先にも述べた。
私たちは、低所得者ほど重税となる消費税増税に断固反対する。
財源対策としては、1つは高額所得者や法人への減税がまだ継続されている(所得税の最高税率を50%から37%へ、また法人税を37.5%から30%へ引き下げたままである)が、彼らが景気回復で潤う今こそ元に戻し、少なくとも6兆円の増収を図ること、2つは年間純計で200兆円にも上る特別会計から向こう10年間・毎年6.5兆円の財源捻出を図ること、3つは輸出にかかる消費税の戻し税約2兆円に適正に課税するなど不公平税制を是正することを求める。そして消費税増税ではなく、これらの財源によって年金・医療・介護などの社会保障の拡充と財政再建を図ることを追求する。広く国民にこれを宣伝することが重要であろう。
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敵が前述のような構えである時、安易に「労働基本権回復」を主張することは、一考を要するのではないか。全国各地で「飛んで灯に入る夏の虫ではないか」との問いを受ける。私は、「もし今それを叫ぶのであれば、『労働基本権は与えられるものではなく、闘い取るものだ』ということを改めて全組織的に意思統一し、現実の反公務員攻撃や個別の合理化攻撃に徹底した大衆闘争で反撃することが前提であろう」と答えている。民営化された組合がストで有効に闘えているだろうか。
以上に述べたように、敵の攻撃は極めて政治的である。その時、公務員労働者・労働組合が政治闘争を怯んでいては後退あるのみだ。全組合員的な学習・教宣・討論が今ほど重要な時期はない。
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