2011.1.28

1.  ここ10年余り、市場経済万能論の新自由主義政治が強行され、社会のあらゆる分野に格差が拡大した。これに対する勤労国民の不満・怒りが一昨年夏の政権交代に結実し、鳩山「生活再建内閣」が誕生し、一定の政策転換が図られてきた。
 しかし、1年半が経過した今日、菅内閣は「平成の開国」=TPP(環太平洋経済連携協定)への参加による経済活性化、消費税を含む税制と社会保障の一体改革などを打ち出し、新自由主義回帰の姿勢を色濃くしている。これでは、壊された社会を再建・再生することはできないばかりか、さらに格差社会を進展させることになる。私たちは、今日的情勢の下で次の施策こそが重要不可欠だと考える。


2.
 その第1は雇用創出・安定と生活改善策である。
 大企業が高利益を上げ続ける下で、約320万人の完全失業者、300万人を超える無業者、そして1700万人の非正規労働者が生み出されている。こうした「貧困層」が労働力人口の35%にも上ること自体、異常な社会である。自公政権の新自由主義政治の結果であり、むき出しの資本主義の本質でもある。
 これに歯止めをかけるために、憲法第27条は「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」、第25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定し、その実現を国家、政治の責任と定めている。
 したがって、
(1) いぜん不足している医療・介護、福祉、子育て、教育や、環境・自然エネルギー・農林水産業の分野に政府・自治体が率先して雇用を創出・拡大する。
(2) 労働者派遣法を改正して非正規労働を規制し、正規雇用への転換を進める。
(3) 年収200万円以下の層をなくすために、中小零細企業への支援策をとりつつ、最低賃金を、当面、時給1000円以上に改正する―ことなどが不可欠である。
 これらが進めば、結果的に納税額も増え、財政健全化にもつながる。
 なお、政府・民主党は「公務員賃金の2割削減」を叫んでいるが、公務労働者の賃金削減は、これに準拠する中小で働く広範な労働者の賃金水準をさらに押し下げ、今以上に労働者を安くこき使う企業の論理そのものである。公務員賃金削減論は、政府の消費拡大・デフレ脱却政策に逆行しており、政策的に破綻している。だから、民主党政権が一方で公務員賃金削減を掲げ、他方で経営側に「賃上げ・雇用増」を呼び掛けても誰も本気に受け止めないのである。


3.
 第2は社会保障制度の改革である。
 勤労者は、所得は年々下がり続けてきたが、年金・医療・介護制度などが次々改悪される下で、将来の不安に備えて消費を控え貯蓄を増やしてきた。日本の平均預貯金残高は約1700万円で世界のトップクラスである。消費にお金が回らず、景気が低迷しデフレが続くのも当然である。
 社会保障制度の個別政策はここでは省略するが、ヨーロッパ特に北欧の社会民主主義のように、老後に安心できる年金が保障され、医療・介護や教育・保育などにほとんど金がかからない制度が確立すれば、多額の個人貯蓄は必要なく、消費にお金が回り、内需拡大・景気回復が進むことになる。そうした安心できる社会保障制度像が見えれば、多くの国民は応能負担の原則による負担の増加にも一定理解を示すことができよう。
 急速に少子・高齢社会が進展する中、社会保障制度改革は急務である。社会保障の拡充を求め、また企業の適正な社会保障負担を求める運動が不可欠であろう。


4.
 第3は税財政改革である。
 以上の政策実現のためには、当然、相当の財源が必要である。
 菅首相は、そのために消費税を含む税制と社会保障の一体改革を叫び、他方で法人税を5%(1.5兆円)減税すると言う。冗談ではない。89年に導入された消費税は「福祉目的」が謳い文句だったが、導入以来22年間に国民が納めた消費税は224兆円で、この間の企業減税はなんと208兆円であった。つまり消費税は福祉ではなく企業減税の穴埋めに使われた勘定だ。この繰り返しをやろうということだ。
 社民党は、将来的には所得の低い(例えば年収400万円以下の)人たちの税負担を避ける戻し税付き消費税論議を否定しないが、その前提として徹底した行財政の無駄の排除、不公平税制の是正及び優先政策の絞り込みが不可欠だ。例えば、
(1) 6700もある独立行政法人・公益法人の事業の見直し・削減、高額天下り役員の削減、不要不急の公共事業の削減。
(2) 租税特別措置など不公平税制の徹底是正(「法人間配当無税」含む)、法人税・所得税の累進税制強化、資産課税の強化など。
(3) 特別会計の積立金・剰余金などの活用。
(4) 防衛費や米軍への「思いやり予算」の削減―などで年間8〜10兆円程度の財源確保が最優先されなければ、消費税論議に乗ることはできない。こうした改革を放置し、てっとり早く財源を確保しようとする消費税増税や公務員賃金の削減などは政策的にも誤りであり、私たちは断固反対である。


5.
 今日、勤労者が生み出した大企業(資本金10億円以上)の内部留保は244兆円(うち預貯金は144兆円)にも上る。巨額のカネ余り状況である。これに国民の血税から法人税を5%=1.5兆円も減税することは到底許されない。むしろ、企業の社会的責任を問い、社会還元(賃上げや雇用増、課税強化など)を求めるべきだ。
 因みに、144兆円の5%=7.2兆円を雇用に回せば年収400万円の労働者を180万人以上雇用できるし、あるいは6000万労働者に毎月1万円の賃上げができる。こうした雇用増や賃上げで生活改善を図り、消費・内需を拡大し景気を回復する施策こそが必要であるし、ひいては内需拡大が企業の利益にもつながる道でもある。
 以上3点の重点政策は、現実に即した日本再生の基本方策だと考える。


資 料

社民党の奮闘で実現が図られた主な施策


【以下は09年度補正予算や10年度予算などで】
(1) 社会保障費の自然増を毎年2200億円抑制する閣議決定は廃止し、9.8%増額
(2) 雇用調整助成金の支給期限延長や支給要件の緩和。雇用保険の適用範囲を拡大(6か月以上を31日以上に短縮)し、新たにパート等の労働者約255万人に適用
(3) 労働者保護のために労働者派遣法改正案の提出に合意
(4) 子ども手当(月額13,000円)や高校教育の実質無償化(月額10,000円)の実現。生活保護世帯の母子加算を復活し、父子家庭への児童扶養手当支給
(5) 地方の自主財源を増やすため地方交付税を実質過去最高に増額
(6) 「販売農家の戸別所得補償制度」の導入
(7) JR不採用問題の解決と郵政現場の非正規労働者10万人の正規化方針
(8) インド洋における米軍などへの給油活動は撤収―など。
 
【以下は10年度補正予算と11年度予算などで】
(1) 基礎年金の国庫負担割合は2分の1(2.5兆円)を確保
(2) 高齢者医療制度の1割負担を継続
(3) 介護施設整備をさらに10万人分追加し、介護従事者の処遇改善
(4) 待機児童の解消緊急対策10万人分を追加
(5) 求職者支援、新卒者・若年者支援、正規化支援強化など雇用対策を重視
(6) 地方交付税総額は今年度を0.5兆円上回る17.4兆円を確保
(7) 地域医療の再生など臨時特例交付金を拡充
(8) 自治体独自の雇用対策・中小企業対策への支援を強化
(9) 身近な公共事業や、公立の小中学校・高校、病院の耐震化・太陽光発電化・脱アスベスト化の促進に向け地域活性化交付金を創設
(10) 児童虐待対策、DV対策、安心子ども基金を拡充
(11) 鉄道建設・運輸施設支援機構の利益剰余金の活用は本来目的に十分留意
(12) 小学1年生の35人以下学級実施
(13) 普天間基地移設の代替施設本体に係る経費は計上しない―など。


以 上