2011.8.30

1.  一昨年9月30日、最高裁は2007年執行の第21回参議院選挙での選挙区選挙で、最大4.86倍の投票格差が生じたことについて、合憲としつつも、投票価値の平等の観点からは不平等であり、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを要望した。
 これを受けて、昨年12月以降、西岡参議院議長の下に「選挙制度の改革に関する検討会」(各会派代表者で構成)を設置し、選挙制度改革案の検討を進めてきた。


2.  論議の深化を図るため、初めに議長は、現行選挙制度を「全国を9ブロックに分けて拘束式比例代表選挙に変更する(全国比例をなくす)」たたき台を提示した。しかし、選挙制度は各党の利害得失が絡むだけに、遅々として検討は進まなかった。
 そこで、6月の第3回「検討会」では、(1)次期参議院通常選挙は、新たな選挙制度の下で行う、(2) 当検討会において8月中にも結論を出す、(3) 一票の格差是正に主眼を置いた新たな選挙制度の結論を出す―旨を確認した。


3.  わが党としては、以上を踏まえて衆・参にわたる選挙制度改革について検討を行い、その上に立って私は8月10日の常任幹事会に以下の改革案を提起し、その了承を得て、8月26日の「検討会」に別表と参考資料を付してこれを提案した。
 【社民党の具体的改革案】
(1)   今回の選挙制度改革の主眼は、最高裁判決(平成21年9月30日等)を踏まえ、「投票価値の平等」を期すことにある。したがって諸外国と比較しても少ない現行の定数は維持すべきである。 
(2)  「国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤」である観点から、死に票を極力減らす全国単一の比例代表選挙と、地域代表を加えた現行の選挙区選挙は維持する。その定数は、現行の比例代表2:選挙区3の割合を維持して、比例区96議席、選挙区146議席とし、3年ごとに半数改選とする。
(3)  選挙区選挙は、投票価値の平等を期するため、従来の各県単位を全国11ブロック単位に広げることとする。
 なお、各ブロック選挙区の定数は別表のとおりとする。


4.  しかし、前途多難である。
 「一票の格差是正に主眼を置いた新たな選挙制度改革」を謳いながら、民主党案(10県合区案)では最大2.97倍の格差、自民党案(選挙区8増12減案)では4.48倍の格差が生じるのに、敢えて違憲状態案が提案されている。そこには、定数削減で国民の目をくらまそうとの思惑があると言えよう。「再考の府・良識の府」としての良識発揮に向け、これからが正念場である。 


     
《別 表》
ブロック 2010年国勢調査
人口速報値 
定数配分
(人口×146
÷総人口) 
偶数定数
配分
1議席当たりの
人口 
一票の格差 現行定数
北海道 5,507,456 6.279 6(-0+2)  917,909  1.38  4
東 北 9,335,088 10.643 12(+1-4) 777,924  1.17  16
北関東 14,179,006 16.166 16(-0+2)  886,188  1.34  14
東 京 13,161,751 15.006 14(-1+4)  940,125  1.42  10
南関東 16,129,391 18.390 16(-2+2) 1,008,087 1.52  14
北信越 7,597,533  8.662  10(+1-4)  759,753  1.15  14
東 海 15,109,432  17.227 16(-1+0) 944,340  1.42  16
近 畿 20,900,288  23.829  22(-2+2)  950,013  1.43  20
中 国 7,561,899  8.622 10(+1-2)  756,190  1.14  12
四 国 3,977,205  4.535 6(+1-2)  662,868  1.00  8
九 州 14,596,977  16.642  18(+1-0)  810,943  1.22  18
合 計 128,056,026  146 146      146

※ 偶数定数配分の数は激変緩和を加味した(3年ごとの改選はこの半数)。
 なお、カッコ内は計算上の定数配分と現行定数との増減を表す。


【資 料】 百万人が抱える国会議員数
      (先進11カ国比較 2010年現在の議席数)
国  名   人口(百万)a 議席実数b 上 院 下 院  比率(b/a)  対日本比率
 スウェーデン  9.24  349  ―  349  37.77  6.45
 イギリス  61.56  1385  735  650  22.49  3.84
 イタリア  59.87 953  323  630  15.91  2.72
 フランス  65.87  898  321  577  13.63  2.33
 オランダ  16.59  225  75  150  13.56  2.31
 カナダ  33.57  413  105  308  12.30  2.10
 オーストラリア  21.29  226  76  150  10.61  1.81
 ドイツ  81.75  672  69  603 8.22   1.40
 日 本  123.00  722  242  480  5.86  1.00
 ロシア 141.90 628  178  450  4.42  0.75
 米 国  314.65  535  100  435  1.70  0.29

※ 児玉昌己(久留米大学)氏の資料を用いた。なお、議席実数は上下両院の計である。

【若干のコメント】
(1)   「日本の議員が多すぎる」などという主張は、この資料からも全く根拠がない。むしろ少ない方である。よく米国と比較されるが、米国やロシアは州議会を有しているので単純比較はできない。むしろ米国等が少なすぎるのではないか。 
(2)  行財政改革の一環で議員定数削減が論じられるが、巨大な行政府の非民主的な行政執行や無駄な公費支出などを厳しくチェックし改革する立場の議員を削減することは矛盾であろう。経済効率と民主主義のコストを混同すべきではない。
(3)  今日求められているのは、国民の要求の多様化・複雑化に対応した幅広い意見を国会に反映する「国会機能の活性化・強化」である。その意味で、議員定数削減ではなく、民意をよりよく反映する選挙制度改革こそが求められる。
   

以 上